少数民族チアチア族に韓国語を使わせる“ハングル輸出事業”、その無責任な実態とは

2016年12月22日 国際
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「ハングルが文字を持たない言語の“新しい文字”になっている」

2009年の「ハングルの日」(10月9日)のイベントで、李明博大統領(当時)が語った言葉だ。彼はその場で、「世界各国でハングルを習おうとする人たちがハングルを容易く学べて世界に広く伝えられるように、世宗学堂を拡大設置していく」とも話した。

世宗学堂とは、世界中に設置されている韓国語の教育機関のこと。ハングルを創製した朝鮮王朝第4代王・世宗(セジョン)の名がつけられた世宗学堂は、文化体育観光部(「部」は日本の「省」に該当)とその傘下機関・世宗学堂財団が運営している。

要するに、国を上げて“ハングル輸出事業”に乗り出したということだろう。

実際にハングルを表記文字として採用したのは、インドネシアの少数民族チアチア族だ。彼らが使うチアチア語は、表記文字を持たなかったという。そこで浮上したのがハングルを表記文字として使うという案だ。

『東亜日報』によると、「社団法人訓民正音学会とバウバウ市が2008年7月、ハングル普及に関する了解覚書(MOU)を締結し、この地域の少数民族であるチアチア族の言葉を表記する公式の文字としてハングルを導入することにした」という。

韓国の政府をはじめ、自治体や大学がチアチア族の住むバウバウ市を訪れ支援活動が活発になると、ハングルを学ぼうとする人数は2009年50人から2012年700人にまで増えた。

インドネシアの少数民族が受けた悲劇

しかし、それから数年が経った現在の状況は、まったく違う。

彼らの教育を支援するはずだった韓国の公共機関の援助は「跡さえも見つけることが難しい」(『中央日報』)。現在ハングルを教えている3人の講師に支給される給料なども、韓国の民間団体が支払っているという。

冒頭の「世宗学堂を拡大設置する」という大統領の発言は、一体どうなったのだろうか。

韓国メディアによると、たしかに2012年1月にバウバウ市に世宗学堂が設立されたという。しかし、それからたった7カ月で世宗学堂の看板は下された。その後2013年に再開されたが、それも1年ほどで撤収している。

その原因として挙げられているのは、予算問題だ。韓国政府の支援金は年間数千万ウォン(数百万円)足らずだったという。結局、チアチア族のハングル教育を担うはずの世宗学堂は、数年で撤収という結末を迎えたことになる。

とある韓国メディアは、この無責任なハングル輸出事業をこう皮肉っている。

「“チアチア族は本当にハングルを使っているのでしょうか?” (そう質問されても)うやむやになったハングル輸出事業を見ると、“わからない。そもそもそれは嘘じゃないですか?”と答えるしかない」

今現在もチアチア族はハングルを学ぼうとしているらしいが、教える教師が足らないというのが実態だという。現状を打破する解決策はあるのだろうか。

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