尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する2回目の逮捕令状が執行されたソウル市龍山(ヨンサン)区・漢南洞(ハンナムドン)の大統領官邸前では、約1カ月以上にわたり弾劾賛否集会が行われた。
尹大統領の弾劾に反対する保守派の集会参加者たちは、「香港の次は韓国だ」「弾劾集会に中国人が関与した」といった内容のニュースを現場で共有している。
漢南洞を覆う噂の中心にはYouTubeがあった。
1月15日、『時事ジャーナル』の取材班が漢南洞の官邸前で出会った尹大統領弾劾反対を訴える市民たちは、「大韓民国が共産化する」と口をそろえて懸念を表明した。彼らは香港が中国に飲み込まれていく過程を教訓にするべきだと強調した。
弾劾案が可決されて以降、集会に継続的に参加しているというキム氏(51歳・男性)は、「1945年の解放後、80年以上にわたって北朝鮮は朝鮮半島の共産化を目指し、統一戦線戦略を立て、5万人以上の親北勢力を生み出した」と述べ、「スパイが民主人士に偽装されているが、若者たちはこれを知らず、非常に心配だ」と語った。
彼らはまた、アメリカの代表的な反中派弁護士ゴードン・チャンが「大韓民国は急速に赤化している」と語った内容のYouTube動画を拡散し、「韓国の共産化」について共感を広めている。
南ベトナムが北ベトナムに赤化された際、内部の腐敗とスパイ活動が放置されたことを引き合いに出し、「沈黙は悲劇を招く」と主張する声もある。
太極旗(韓国国旗)を掲げて弾劾反対集会に参加していたイ氏(63歳・男性)は、「北ベトナムは心理戦と統一戦線戦略で国民を欺き、体制を崩壊させた。当時のベトナムでは、大統領秘書室長や法務部長官、第1野党の指導者など政府の中枢がスパイだった」と主張し、「スパイと反国家勢力が政府と社会を崩壊させた。韓国も国民の無関心と沈黙のなかでスパイ活動が活発化している」と指摘した。
保守派の市民たちは、尹大統領弾劾集会に中国人が参加したとされるYouTube動画を共有し、「中国による内政干渉説」を強く疑っている。
与党「国民の力」のキム・ミンジョン議員も1月5日、「中国人が弾劾賛成集会に参加していたのは事実だ。集会参加者が着ていたジャンパーは中国の大学の学科ジャンパーだ」と述べ、写真と文を添えた会話のスクリーンショットをSNSに投稿し、議論をさらに拡大させた。
ソウルの落星垈(ナクソンデ)に住む会社員キム氏(30歳・男性)は、「他人の話に振り回されることは少ないほうだ。しかし弾劾集会に中国人が参加しているYouTube動画を見て、『中国の内政干渉は事実なのだな』と思った」と語り、「韓国の選挙開票所に中国人が出入りしていたという内容もある。本当ならば危険な状況ではないか」と話した。
保守派の市民の間では、新聞やテレビといった従来のメディアよりもYouTubeの方が信頼できる媒体となって久しい。
彼らに人気のあるYouTubeチャンネルとしては、『神の一手』『コン・ビョンホTV』『GROUND C』『キム・チェファンのシサイダ』などが代表的だ。
尹大統領の支持者の間では、「国民の力」議員たちよりも個人ユーチューバーの影響力が大きい。ある支持者は「20代、30代の男性の間で『GROUND C』チャンネルの人気は凄まじい。特定のメディアはあまりにも偏向しているため、購読をやめて久しい」と語った。
この状況を危機と見た最大野党「共に民主党」は、『神の一手』を含むユーチューバー10人を内乱扇動罪で告発した。
「共に民主党」チョン・ヨンギ国民疎通委員会共同委員長は「カカオトークを通じてフェイクニュースを拡散することも、内乱扇動罪として処罰され得る。単なる一般人であっても内乱扇動やフェイクニュースとして厳格に告発する」と述べ、「カカオトーク検閲」と呼ばれる新たな論争を引き起こした。
漢南洞官邸前の集会では『HIS TIMES』という週刊新聞も保守派支持者に配布されている。この媒体は、ベネズエラが腐敗と独裁で終焉を迎えたことを引き合いに出し、韓国の現状と非常に似ていると主張している。また、尹大統領が戒厳令を発令せざるを得なかった理由について、保守派ユーチューバーの主張を根拠として挙げている。
専門家たちは、朴槿恵(パク・クネ)前大統領の弾劾が行われた時期から、保守派市民が従来のメディアに不満を抱き始めたと分析している。この時期を境に、保守派の政治系ユーチューバーの人気も急上昇したという。
嶺南(ヨンナム)大学社会学科のホ・チャンドク教授は「ユーチューバーが成長する背景には、従来のメディアの責任も大きい」とし、「メディアは社会をより透明で清新なものにするため、積極的な役割を果たすべきだ」と求めた。
(記事提供=時事ジャーナル)
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