逆転のカードは「改憲」と「予備選」…韓国大統領選挙で李在明氏に対抗できる“保守”の候補は?

2025年04月11日 政治 #時事ジャーナル
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111日間の弾劾過程と、60日間の早期大統領選挙。韓国は尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領を送り出し、新たな大統領を迎える。

【注目】「鳥肌が立つほどセクシー」李在明への“賛美歌”

弾劾の余波に直面している与党「国民の力」は、まさに四面楚歌の状態だ。李在明(イ・ジェミョン)前代表が率いる「共に民主党」は、弾劾期間中にすでに大統領選への準備を始めていたが、「尹錫悦の国民の力」は依然として前大統領との関係整理すら決められていない。

党内は弾劾に対する賛否をめぐって分裂しており、各種世論調査では政権交代を望む声が、現政権の継続を望む声を圧倒している。

出遅れた「国民の力」が掴める唯一の勝機は、「誰が李在明を打ち負かせるか」にかかっているという見方が多い。

まだ大統領選で誰に投票するか決まっていない「無党派層」は、国民の10人中4人に上るとされ、「李在明フォビア(恐怖症)」ともいえる世論も根強いため、彼に勝てる候補を選出できるかどうかが、最後の逆転劇のカギになると与党は期待している。

李在明前代表
(写真=時事ジャーナル)李在明前代表

まず、「国民の力」における逆転の第一歩は、「保守勢力の統合」だというのが政界の支配的な見方だ。

戒厳と弾劾というスキャンダルを出した政党に対する否定的なイメージを最小限に抑え、局面を転換するためには「保守統合」は避けて通れない。そのためには「裏切り者」とレッテルを貼られた「弾劾賛成派」の声を受け入れることが第一の課題だと分析されている。

中道層における「政権交代」を要求する声が過半数を大きく超える世論調査結果が相次いでおり、党内の異なる意見を受け入れなければ、不利な世論の地形を打破するのは難しいという説明だ。

結果的に、大統領候補だけでなく、党自体が「中道層への拡張性」を確保する必要があるという指摘も出ている。内紛を乗り越える最短の道がそこにあるという見方だ。

それを実行する最初の舞台が予備選挙だろう。李在明前代表が圧倒的な1強体制で独走する「共に民主党」の予備選挙は比較的安定しているが、そのぶん話題性には欠ける。一方で「国民の力」は、10人以上の候補が出馬する見通しのなか、世論の注目を集めるいわゆる「コンベンション効果」を狙っている。

白熱する競争を通じた「コンベンション効果」に期待

「国民の力」の予備選の日程は、4月14~15日に候補者登録を受け付け、16日に書類審査を通じて1次予備選進出者を決定する。

このなかで、国民世論調査100%で行う1次予備選(カットオフ)を経て4人に絞られる。本選に進出した4人は、過半数得票者がいなければ、2人による決選投票(選挙人団投票50%+国民世論調査50%)を通じて最終的な大統領候補が選出される。

最終候補を決定する全党大会は5月3日に開催され、大統領選に立候補する公職者は翌日の5月4日までに辞職しなければならない。

左からキム・ムンス、ナ・ギョンウォン、アン・チョルス、オ・セフン、ハン・ドンフン、ホン・ジュンピョ
(写真=時事ジャーナル、ソウル市)左からキム・ムンス、ナ・ギョンウォン、アン・チョルス、オ・セフン、ハン・ドンフン、ホン・ジュンピョ

これにより候補者たちは、世論の「中間評価」を受けることになる。「大統領が弾劾された政党からの候補者」であるだけに、厳しい国民の審判を受けなければならないという内部の批判的な声が反映されたというのが、「国民の力」の立場だ。

イ・ヤンス事務総長は「世論100%を反映する1次カットオフは、民意の反映比率を高めてほしいという要望が多く、国民の目線に合う候補が4人の本選に進めるように決めた」と述べ、「2・3次予備選も、国民的関心を高めるという観点から2人の決選が必要という意見が多かった。決選で50%の支持を得てこそ、その候補が国民の信頼を得られる」と説明した。

コンベンション効果を最大化する突破口は何か。『時事ジャーナル』の取材によれば、「国民の力」は「ツートラック戦略」で李在明前代表に圧力をかけると見られている。

与党の指導部は大統領制の改憲を軸に、弾劾局面からの転換に全力を注ぎ、候補者たちはそれぞれの長所を活かして世論戦を展開し、予備選の熱を高める方式だ。候補者たちは尹前大統領の弾劾へのスタンスこそ異なるが、「李在明に勝つ」という共通の目標意識のもと、それぞれの「保守統合」戦略を進める見通しである。

その過程で、候補者間で激しい牽制や攻撃が繰り広げられる可能性もある。

まず党指導部が前面に出した「改憲」の公約は、局面転換のカードとして積極的に活用されると見られる。党として旧来の憲法体制を批判し、権力を分散させる姿勢を示すことで、戒厳令や弾劾に対する党への怒りを鎮められるとの判断がある。

さらに、与野党の有力候補の中で唯一、改憲の公約に消極的な李在明前代表を牽制する手段としても有効だとされている。

最近、ウ・ウォンシク国会議長が早期大統領選と同時に改憲国民投票を実施しようと提案したが、李在明前代表の拒否によりすぐに撤回したことで、「国民の力」側には批判の根拠が与えられた格好だ。

李在明前代表
(写真=時事ジャーナル)李在明前代表

このとき、李在明前代表の熱烈な支持層である「ケッタル」たちがウ・ウォンシク議長に対して激しい非難を浴びせ、「共に民主党」の強硬なイメージを一層強める結果となった。李在明前代表がウ・ウォンシク議長の提案を拒否し、「内乱の終息が優先だ」と主張したことで、この件はひとまず決着した。

ただし、改憲は大統領選ごとに取り上げられるものの、実際に政権が実行に移した例はほとんどない。そのため、政治圏では「改憲公約」は選挙戦で劣勢にある側の戦術的ロジックにすぎないという自嘲的な批判もある。

今回の早期大統領選でも、改憲は「国民の力」候補たちが李在明優位の構図を覆すためのカードとして使っているという指摘が出ている。

キム・ムンス前雇用労働部長官も4月9日の出馬宣言で、「大統領の直接選挙制を維持しながら、国民の願いをまとめる改憲を積極的に推進する」と述べた。ハン・ドンフン前党代表、ホン・ジュンピョ大邱市長、オ・セフンソウル市長らも、早い段階からそれぞれの改憲構想を明らかにしている。

「庶民・清廉・労働」キム・ムンス、「中道拡張性」ハン・ドンフン

定数となった「改憲論」とは異なり、各候補を象徴する「キーワード」は変数となる。

候補者数が二桁にのぼるなか、数多くの候補の中から頭角を現すために、どのようなイメージを設定するかは、国民世論調査にも大きな影響を及ぼすだろう。こうした戦略が「李在明 vs反李在明」の構図の中で有効かどうかも、注目される争点だ。

まず、「保守勢力の1位」候補であるキム・ムンス前長官の大統領選の初メッセージは「庶民」「清廉」「労働」の3つにまとめられた。「貴族政党」「ウェルビーイング政党」と揶揄されてきた「国民の力」の弱点から脱却し、また「少年工」出身を強調する李在明前代表に対しては、清廉なイメージで対抗するという戦略だ。

キム・ムンス前長官
(写真=時事ジャーナル)キム・ムンス前長官

キム・ムンス前長官は4月9日に国会で行った大統領選出馬記者会見でも、「12の罪状で裁判を受けている被告人・李在明に対抗するには、何も持たない清廉な手を持つキム・ムンスこそが適任だ」とし、「虚偽と甘言で大韓民国を混乱と破滅へ導こうとする李在明の民主党を、私キム・ムンスが確実に正す」と強調した。

ハン・ドンフン「国民の力」前代表は、「中道拡張性」に最も近い候補として挙げられている。特に彼は、「検事出身の大統領」尹錫悦が残した否定的なイメージから脱却するため、尹前大統領と距離を置きつつ、「原則と責任」のイメージ構築に注力している。

ハン・ドンフン前代表は4月10日、国会で出征式を開き、「政治交代・世代交代・時代交代」の3つのキーワードを掲げた。そして李在明前代表に対し、「自身の権力のためなら国家の運命すら投げ捨てられる危険な政治家と、彼を盲信する極端なポピュリストたちから我々の未来を守らなければならない」と述べた。

ホン・ジュンピョ大邱市長は、推進力と誠実さを勝負手としている。野党の動きに応じて歯に衣着せぬ発言をしてきたホン・ジュンピョ市長は、最近も「文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に作られた奇妙な捜査構造を改革すべき時が来た」とし、「高位公職者犯罪捜査処(公捜処)は廃止し、独立した国家捜査局を“韓国版FBI”として創設しよう」と主張した。

ホン・ジュンピョ
(写真=時事ジャーナル)ホン・ジュンピョ

さらに、20代、30代の票を取り込むための先進的な公約が出てくるかも注目される点だ。特にホン・ジュンピョ市長のキャンプ名「ムデホン」は、2022年の第20代大統領選に挑戦した際、MZ世代の支持を得た造語「ムヤホン(無条件で野党候補はホン・ジュンピョ)」から着想を得たものだ。

オ・セフンソウル市長は、「4期の市政運営」の経験を積極的に活用する構えだ。彼は、「弱者と共に歩む」ことを象徴する場所で大統領選への出馬を公式化する予定であり、政策的な象徴性を最大限に強調するものと見られる。

特に、与党候補の中で初めて次期大統領の任期を3年に短縮するという「大胆な改憲案」を提案したことは、これまで「ミョン・テギュンリスク」や「土地取引許可制」などで低迷していた知名度を、一気に高めるカードだと自信を見せている。

アン・チョルス議員やナ・ギョンウォン議員など、他の有力候補たちの動きも加速している。何より、保守陣営の一角であるイ・ジュンソク「改革新党」議員と、「国民の力」の候補者たちの一本化の可能性も、今後の主要な変数として浮上している。

「李在明」という一強と戦うためには、イ・ジュンソク議員が持つ支持率を結集し、保守陣営全体としての勝率を最大化すべきだという声が高まっている。

「誰を選ぶか」留保する浮動層が最大の変数に

世論の変数はどこにあるのだろうか。早期大統領選が本格化して以降、一部の世論調査では、無党派・浮動層の支持において、李在明前代表が「国民の力」の主要候補者たちに後れを取る結果が出ることもあった。

それに伴い、大統領選のキャンペーン展開によって、こうした票が最後の変数になるとの見方も出ている。政治専門家たちは、無党派層は一般的に投票率が低いとされるが、今回の大統領選の局面では「反李在明」票として動く可能性があると分析している。

韓国ギャラップが『News1』の依頼で4月6~7日、1008人を対象に実施した世論調査によると、李在明前代表はキム・ムンス前長官、ハン・ドンフン前代表、オ・セフン市長、ホン・ジュンピョ市長、アン・チョルス議員などの保守系有力候補との一騎打ちで、10~20%ポイントの差でリードしていた。

ハン・ドンフン前代表
(写真=時事ジャーナル)ハン・ドンフン前代表

しかし、「支持政党」について、「なし・わからない・無回答」と答えた無党派層(全体の約18%)に限定して実施した一騎打ちでは、結果が異なった。ここで李在明前代表がリードしていたのは、キム・ムンス前長官のみだった。オ・セフン市長、ユ・スンミン元議員には誤差範囲外で後れを取り、アン・チョルス議員、ハン・ドンフン前代表、ホン・ジュンピョ市長には誤差範囲内で劣勢だった。

戒厳・弾劾の局面を通じて支持率トップを維持してきた李在明前代表も、「浮動層」を説得するには至っていないという雰囲気だ。韓国ギャラップが尹大統領の弾劾直前の4月1~3日に実施した定例世論調査では、「次期大統領にふさわしい人物は誰か」という質問に対して最も多かった回答は、李在明前代表(34%)ではなく「意見を留保」(38%)だった。

これは、非常戒厳事態以降、韓国ギャラップが13週間にわたって実施してきた調査の中で最も高い数値だ。特に、政治的傾向別に見ると、中道層(全体の約33%)では李在明前代表と答えた割合が38%、意見を留保した割合が39%で、後者が上回っている。

支持政党別に見ると、無党派層では李在明前代表を支持する割合が10%にとどまったのに対し、意見を留保した割合は77%に達した。

「中道・無党派・浮動層」の存在感は、与野党を問わず極めて強烈といえる。「共に民主党」にとっては圧倒的な支持率を固定化させる安全装置であり、「国民の力」にとっては逆転を狙えるチャンスになり得るからだ。

クォン・ソンドン院内代表(左)とクォン・ヨンセ非常対策委員長
(写真=時事ジャーナル)「国民の力」クォン・ソンドン院内代表(左)とクォン・ヨンセ非常対策委員長

政治界では、これらの層の支持を誰がつかむかによって、大統領選の終盤で接戦の様相を呈する可能性があるという見方も出ている。そのため、「国民の力」内部では「現実性のある李在明の対抗馬」を戦略的に見極めるべきだという声が高まっている。

進歩陣営でも、警戒心を緩めてはならないという指摘が出ている。「共に民主党」の非常対策委員長を務めたウ・サンホ元議員は、4月9日に出演したSBSラジオで「(李在明前代表が有力だとしても)傲慢に“もう決まった”と考えるべきではない。選挙はどう転ぶかわからない」と語った。

そして、「今は国民の力の候補が分散しているから弱く見えるだけで、支持層が最終的に1人の候補の下に結集すれば、少なくとも35%以上の力は出る。今回の大統領選も接戦になるだろうし、“必ず李在明前代表が勝つ”と考えるのは間違いだ」と強調した。

(記事提供=時事ジャーナル)

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