日本と韓国の選手たちは、建前上の交流のためでもなければ誰かに強要されたわけでもなかった。
自ら韓国選手の部屋に出向いた播戸はこう振り返った。
「大会前にバンコクで日韓の選手がニアミスしたんです。僕の座席のすぐ後ろに韓国の選手がいた。第一印象は“人相が悪い”(笑)。でも、実は結構イイ奴らだった。ホテルのエレベーターで“部屋に遊びにこないか?”と誘われて、すぐに訪問しましたよ」
バンコクの空港で顔見知りになった播戸と韓国の選手たちは、チェンマイのホテルでも挨拶を交わす仲となり、気がつくと日韓両国の選手が会釈程度の挨拶を交わすようになっていた。
グループリーグで対決した夜には、韓国チームのキャプテンだったキム・ゴンヒョンが小野伸二を呼び止め、お互いの健闘を称え合ったあと、決勝でも日韓対決しようと誓い合ったという。
「小野とはU-16のときも試合をしたことがあったからお互いよく覚えてたし、背番号も同じでキャプテン同士だったから、親近感が沸いた。プレーだけでなく人間的に素晴らしいヤツだったしね!試合では激しくぶつかったけど、一言伝えたかったんだ。決勝でまたやろうって」(キム・ゴンヒョン)
こうした交流を重ねながら、決勝戦を戦った日本と韓国。あの激しい試合の陰で、日韓イレブンが急接近していたとは、思いもよらないことだった。
しかし、さらに驚くべきことが決勝の後に起こった。両国のコーチングスタッフも寝静まった深夜、イ・ドングッとキム・ウンジュンの部屋に日韓イレブンが集い、朝まで討論会ならぬ、朝まで交流会が開かれたのだ。
初めはイ・ドングッ、キム・ウンジュン、チョン・ヨンフン、パク・ドンヒョクといった韓国選手と、播戸、小笠原の日本人選手の交流だった。
そこに入れ替わり立ち代わり韓国選手が出入りしているうちに、「日本選手をもっと招待しよう」とイ・ドングッが言い出した。
この提案に全員が賛成し、皆で日本選手を迎えに行くことになったのだが、午前12時過ぎの招待。ソル・ギヒョンやイ・ユンソプは「断られるのではないか」と心配していだが、日本選手はそれほど付き合いの悪いヤツらではなかった。