日本だけではないテレビ局の“ハラスメント体質”…死で訴えるしかなかった韓国気象キャスターの悲劇

2025年02月16日 社会 #時事ジャーナル
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危うく闇に埋もれるところだった韓国気象キャスターの悲報が遅れて世間に知られ、大きな衝撃を与えている。

【注目】「本当に腹が立つ」と書いた2カ月後に…気象キャスターの日記

彼女は、生きる希望を失ったと判断し、自らの苦しみと理不尽さを世に知らしめるために、最期の選択をした。

2024年9月6日午前2時頃、ソウル麻浦(マポ)区・上岩洞(サンアムドン)の加陽大橋で、20代の女性が橋の手すりに上り、飛び降りようとした。このとき、偶然通りかかった別の女性が咄嗟に髪をつかみ、手すりから引き戻したことで、一命を取り留めることができた。

通報を受けて出動した警察は、彼女を近くの交番へ連れて行き、家族に連絡して引き渡した。

この女性は、MBCの気象キャスター、オ・ヨアンナさん(28)だった。

ソウル芸術大学文芸創作科を卒業したオ・ヨアンナさんは、放送業界への進出を模索していた。大学在学中の2017年には、芸能事務所JYPエンターテインメントの第13期公開オーディションに参加し、入賞している。

2019年には春香(チュニャン)選抜大会で「淑(5位)」に入賞し、同年11月にはSBSスーパーモデル選抜大会に出場して本選に進出した。一時期、アイドルの練習生としても活動していた。

気象キャスターの先輩を加害者と名指

2021年、MBCのフリーランス気象キャスター公募に合格した後、オ・ヨアンナさんは平日と週末の天気予報を担当した。彼女は自分の仕事に強い愛着を持っていた。

そんなオ・ヨアンナさんが飛び降りようとしたのだ。

家族が「なぜそんなことをしようとしたのか」と尋ねると、オ・ヨアンナさんは「職場がつらい。背骨が折れるほど痛く、腸がちぎれるような苦しさで、生きることがあまりにも辛いから、いっそ楽になりたかった」と答えた。

家族は状況の深刻さを感じ、病院への入院を勧めたが、オ・ヨアンナさんは「放送があるし、広告の契約もしているから撮影しなければならない。死ぬつもりはない。ただ、感情的になってやっただけ」と拒否した。

その後も、オ・ヨアンナさんは2度にわたり同じような行動を起こし、最初の試みから9日後の9月15日、加陽大橋から飛び降り、この世を去った。遺族は3カ月後の12月10日に訃報を公表したが、死因については明らかにしなかった。

オ・ヨアンナさん
(画像=オ・ヨアンナさんInstagram)

そんななか、1月27日にオ・ヨアンナさんの携帯電話から原稿用紙17枚分に及ぶ文章が見つかった。そこには職場で同僚から受けた嫌がらせについての記述があった。

オ・ヨアンナさんは橋から飛び降りる直前、携帯電話のメモ帳に長文を残し、嫌がらせの加害者として気象キャスターの先輩2人の名前を挙げていた。また、彼女のカカオトークのメッセージ履歴や録音ファイルにも、職場でのいじめの状況が記録されていた。

その文章の内容を最初に報じた『メイル新聞』によると、オ・ヨアンナさんは入社10カ月後の2022年3月から、先輩たちの嫌がらせの標的になったという。

先輩キャスターたちは、自分のミスをオ・ヨアンナさんのせいにしたり、退勤時間を過ぎてから「教育する必要がある」との理由で会社に呼び出したりしていた。その後も様々な理由をつけてオ・ヨアンナさんを責めたり、批判したりしていたという。

同年11月、オ・ヨアンナさんはtvNのバラエティ番組『ユ・クイズON THE BLOCK』の制作チームから出演のオファーを受けた。しかし、先輩キャスターに事前に知らせずに出演を決めたことで、先輩の1人が「何してるの?あなたが番組に出て、何が話せるっていうの?」と、見下すような発言をしたという。

同番組に出演した後、オ・ヨアンナさんに対する嫌がらせはさらにエスカレートした。その背景には、嫉妬や妬みがあったとみられる。

彼女を標的にした先輩キャスターたちは、オ・ヨアンナさんと同期の1人を除いた4人とスタッフのみが参加した秘密のグループチャットを作り、そこで陰口を言い合っていた。2人を露骨に仲間外れにしていたことがうかがえる。

また、オ・ヨアンナさんは2024年8月26~29日にかけて気象ニュースを担当した際、左手首にバンドを巻いて出演していた。これは自傷の跡を隠していたのではないかと推測されている。

苦しみは日を追うごとに深刻になり、彼女は10カ所以上の精神科を訪れながら、懸命に耐えていた。

精神的な限界が訪れたのは、秘密のグループチャットの存在を知ったときだった。当初その存在を知らなかった彼女が、後になって知ることになり、大きなショックを受けたという。

オ・ヨアンナさんは、グループチャットに参加していた誰かから間接的に噂を耳にするようになり、そこで交わされていた自分に対する陰口を知り、会話のスクリーンショットを保存し始めたとされる。実際、彼女の携帯電話には、自分を話題にしたグループチャットのやり取りが大量に保存されていた。

加害者とされる人物たち、SNSのコメント欄を閉鎖し沈黙

遺族が公開した内容によると、グループチャットでは「完全に頭がおかしい」「体から臭いがする」「(ドラマ『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』の)ヨンジンは少なくとも放送は上手だった」「自己愛が強く、共感力がない」「言うことを聞かないし、礼儀がない」「後輩として扱うのをやめよう」「朝の放送なのに酒臭い」「被害者ぶってばかり。私たちが被害者だ」といった言葉が交わされていた。

加害者として指摘された1人は、退勤後のオ・ヨアンナさんを呼び出し、暴言に近い言葉を浴びせた。オ・ヨアンナさんは携帯電話でその会話を録音しており、そこには「先輩に対してその態度は何?あなたがここで一番偉いの?」「上下関係がない」「あまりにも生意気で、人にする態度じゃない」など、屈辱を感じさせるような発言が記録されていた。

オ・ヨアンナさん
(画像=オ・ヨアンナさんInstagram)

遺族側はこの録音の内容を公開し、「オ・ヨアンナさんは死を決意した後、カカオトークのやりとりや録音記録などを携帯電話に保存していたようだ」とし、「生きている間にこれを公表する方法がなかったから、最期にでも世間に伝えようと考えたのではないか」と語った。

そんな彼女は生前、つらい状況を周囲に打ち明けていた。職場の同僚には、「こんなことを言われるほど私は最悪なのか」「私が気象チームの存続を左右するほどの失敗をしたのか」とメッセージを送り、友人にも「職場のストレスがあまりにも辛くて、もう耐えられない」と頻繁に相談していた。

そのため遺族は、オ・ヨアンナさんが亡くなる前にMBC関係者4人に職場での被害を訴えていたものの、何の対策も講じられなかったと主張。その結果、状況が改善される見込みがないと判断し、最悪の決断に至ったとしている。

オ・ヨアンナさんの生前、MBCの気象キャスターは6人在籍していた。オ・ヨアンナさんはこのうち2人を加害者として名指ししたが、遺族側は同期1人を除いた秘密のグループチャットに参加していた4人全員が加害者だと主張している。

現在、加害者として指摘されている気象キャスターたちは、公式な立場を表明せず、SNSのコメント欄を閉鎖したまま沈黙を続けている状況だ。一部のメディアやユーチューブ、SNSでは、加害者として名指しされた気象キャスターたちの実名や写真が拡散されている。

オ・ヨアンナさんが生前に残したメモや病院の診断書などが公開されるにつれ、彼らに対する批判の声はますます強まっている。

遺族、加害者に対する法的措置を開始

遺族は加害者と指名された人物たちに法的措置を取ることを決めた。

まず、主要な加害者とされるA氏を相手に、ソウル中央地方裁判所に民事訴訟を提起した。訴状では「故人は職場で公然と暴言や侮辱を受け、2年間にわたり言葉によるハラスメントが続いていた」と主張した。

また、訴訟理由については「職場での優位な立場を利用した暴力や不幸な出来事が繰り返されないようにするため」と説明。その他の3人についても、加害の程度に応じて追加の訴訟を検討している。

さらに遺族側は、MBCの消極的な対応についても問題視している。オ・ヨアンナさんが生前、MBCの関係者に被害を訴え、助言を求めた際の録音が残されているという。

遺族は会社が積極的に対応していれば、この悲劇は防げたはずだと主張するとともに、オ・ヨアンナさんの死後、社内で訃報を通知しなかったことについても疑問を呈している。

オ・ヨアンナさん
(写真=オ・ヨアンナさんInstagram)

MBCは、オ・ヨアンナさんの職場内でのいじめ疑惑が報道されたことを受け、遺族側の真相解明の要請に全面的に協力する方針を明らかにした。

MBCは「故人がフリーランスとして働く間、担当部署(経営支援局の人事チーム相談室、監査局クリーンセンター)や管理責任者に対して、一切の苦情を申し立てたことはなかった」と述べた。

さらに、「もし会社に正式な苦情が寄せられていたり、責任ある管理者に被害が少しでも伝えられたりしていたなら、当然、適切な調査を行っていただろう」とし、「MBCは職場内のハラスメントに対しては厳格に対応しており、フリーランスや出演者からの通報や相談があれば、すぐに調査を開始する」と強調した。

MBCは2月3日、独自の真相調査委員会を設置し、外部の専門家を委員長に任命して本格的な調査に乗り出した。

一方で、雇用労働部はMBCに対する特別労働監督を実施することを決定した。

雇用労働部は当初、MBCに自主調査を指導し、その進行状況や会社側の資料提出の状況を踏まえて、特別監督の必要性を判断する予定だった。

しかし、遺族がMBCの独自調査に参加しない意向を示したことや、オ・ヨアンナさん以外にも追加の被害者がいる可能性が指摘されたことに加え、労働組合が特別監督を求める請願を出したことなどを総合的に考慮し、特別労働監督に踏み切ったと説明している。

また、ソウル麻浦警察署も、国民申告窓口を通じて事件の捜査を求める要請を受け、内偵調査を開始した。

MBCの硬直した組織文化への指摘も

一部では、今回の事件を契機にMBCの硬直した組織文化を改善すべきだという声が高まっている。

現在、気象キャスターは報道局の気象チームに所属しているが、正社員ではなくフリーランスとしての立場にある。

MBCの元気象キャスターたちは、職場でのハラスメントが特定の人物だけに起こる問題ではなく、「根深い組織文化」によるものだと指摘している。

MBC気象キャスター出身のタレント、パク・ウンジさんは、オ・ヨアンナさんを追悼しつつ、社内のハラスメント文化を批判した。彼女はSNSで「私も7年間、その厳しい環境に耐え抜いてきたからわかる。その苦しみがどれほど恐ろしく、孤独なものか…。助けになれなくて本当に申し訳ない」と述べ、「根深い職場のハラスメント文化は、もう徹底的に明らかにされるべきだ」と訴えた。

同じくMBCの気象キャスター出身のペ・スヨンさんも、SNSに「本当に心が痛む」とし、「私がMBCを去るときも同じだった。彼らの基準では、私はただのフリーランス気象キャスターに過ぎなかった。だから、私の声に耳を傾ける人は誰一人としていなかった」と綴った。

さらに、「大好きだった仕事であり職場だったが、その裏側をはっきりと知ることになった。今は少し変わったと思っていたが、何も変わっていなかったなんて…」と、悲痛な思いを吐露した。

今回の事件については、MBCによる独自の真相調査、雇用労働部の特別労働監督、警察の捜査などを通じて、より詳しい事実関係が明らかになるとみられる。その結果を踏まえ、追加の措置や司法手続きが進められる見通しだ。

(記事提供=時事ジャーナル)

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