韓国の仁川(インチョン)国際空港で倒れた外国人妊婦が、2時間以上にわたって病院を探したものの見つからず、最終的に救急車内で出産した。
仁川消防本部によると、3月16日午後12時20分頃、仁川空港第1ターミナル3階でベトナム国籍の30代女性Aさんが倒れたとの通報があった。
現場に出動した救急隊は、Aさんが腹痛を訴えたため、仁荷(インハ)大学病院へ搬送しようとしたが、病院側から「産婦人科の受け入れが難しい」との回答を受けた。
そこで救急隊は、近隣のソウルや京畿道の病院10カ所以上に問い合わせたが、いずれの病院も「妊娠週数の確認が必要で、診療は難しい」として受け入れを拒否した。
Aさんは仁荷大学病院の前で約2時間待機することになり、その間に陣痛が激しくなり、破水。最終的に同日14時30分頃、救急車内で男児を出産した。
消防関係者は「搬送先の病院を探している最中に陣痛が激しくなり、救急車内で緊急分娩を行った」とし、「出産後、母子ともに仁荷大学病院へ搬送され、治療を受けている」と述べた。
韓国では最近、緊急搬送された患者を病院が受け入れないケースが増加している。
昨年11月には、京畿道・水原(スウォン)で16歳のA君が「頭が痛い」として意識を失い、救急車に乗せられたが、受け入れ先が見つからず、6時間も病院をたらい回しにされ、手術が遅れて1週間後に死亡する事態が発生した。
韓国メディア『時事ジャーナル』が消防庁に情報公開請求を通じて入手した資料によると、2024年1月から12月までの「119救急隊再搬送件数」は5657件だった。2023年の再搬送件数は4227件であり、1年で1430件(約34%)も増加したことになる。
その原因は、「専門医」が不在だからだ。専門医とは、研修医過程(インターン・レジデント)を経て保健福祉部長官が実施する専門医資格試験に合格した医師を指し、彼らは救急患者の診療、処置、手術などすべての業務を担当する。救急室で中枢的な役割を果たす存在だ。
では、なぜ専門医が不足しているかというと、研修医の集団辞職に加え、専門医自身も病院を離れたからだ。2024年3月から10月までに、全国88の研修病院で辞職した専門医は1729人に上り、研修医辞職前の2023年同期の865人と比べて約2倍に増加した。
特に救急医学科の専門医は、2024年に137人が辞職しており、前年(38人)と比べて3.6倍に増加した。
この背景には、韓国政府が段階的に実施している大学医学部の定員増加政策がある。
韓国政府は昨年2月、医師不足解消に向け、大学医学部の入学定員(現在3058人)を2025学年度の入試から5年間にわたって毎年度2000人増やすことを発表した。
これに対して、韓国医師協会は強力に反対。全国の病院でも複数の医師が出勤を拒否したり、集団辞職したりする事態となった。医学部の学生たちも立場は同じで、休学届を提出し、授業をボイコットしており、それは現在も続いている。
今回、ベトナム人妊婦は無事に出産できたものの、病院が見つからなければ最悪の事態になっていた可能性もある。医療界と政府の対立が続く限り、このような悲劇が繰り返される危険性は拭えない。
(文=サーチコリアニュース編集部O)
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