李在明(イ・ジェミョン)政権の発足後、本格化した特別検察(特検)の刃が「政教癒着」疑惑に向けられている。
事件の頂点にいる旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁は、教団史上初めてトップが公開召喚されるという不名誉を経験した。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の妻、キム・ゴンヒ夫人に関連する疑惑を捜査しているミン・ジュンギ特別検察チームは、韓鶴子総裁を取り調べた翌日の9月18日、異例のスピードで逮捕状を請求した。
巫俗人「コンジン法師」ことチョン・ソンベ氏に関連する捜査から端を発した、旧統一教会側のキム・ゴンヒ夫人への贈り物、さらには「親尹派」とされるクォン・ソンドン「国民の力」議員への政治資金提供など、複数の疑惑は、教団が第20代大統領選挙の局面で「国民の力」を支援したのではないかとの波紋を広げている。
裁判所は9月16日、証拠隠滅の恐れがあるとして、特検発足後初めて現職議員であるクォン・ソンドン議員に対し逮捕状を発布した。
クォン・ソンドン議員が逮捕されたことで、視線は旧統一教会側へと移っている。全世界に数多くの信徒を抱える韓鶴子総裁が、逮捕の岐路に立たされた。
韓鶴子総裁は、チョン・ソンベ氏や家庭連合世界本部長を務めたユン・ヨンホ氏の請託疑惑が浮上してから5カ月目にして、ついに特検のフォトラインに立った。
9月17日、被疑者として特検チームに出頭し、休憩時間を除いて約5時間30分の取り調べを受けた。特検側が指定した3度の出頭日(9月8日、11日、15日)には応じなかったが、自ら希望する日に自発的に出頭した形だ。特検内部で逮捕令状の請求など強制措置が取り沙汰されたことが、この判断の背景とみられる。
韓鶴子総裁側は、9月初めに心臓の手術を受け、健康上の理由で出頭できなかったと説明したが、特検は取り調べ翌日の18日午前、韓鶴子総裁と当時の総裁秘書室長だったチョン・ウォンジュ天務院副院長に対し、政治資金法違反などの容疑で逮捕状を請求した。
今年82歳の韓鶴子総裁は、2012年に夫である故・文鮮明(ムン・ソンミョン)初代総裁が死去した後、教団のトップに就任した。「神の独生女(韓鶴子総裁を指す)、神と直接つながる存在であり再臨のメシア」として新たな教義を打ち出した。
旧統一教会は韓国国内のみならず、日本など海外にも信徒を抱えており、世界で数百万人規模だと自ら推計している。内部では「実際は数十万人規模」との指摘もあるが、世界的に活動する団体であることを示すかのように、韓鶴子総裁の特検召喚をめぐっては日本やアメリカなど海外メディアの取材熱も高かった。
現在、韓鶴子総裁が直面している疑惑は大きく2つある。尹錫悦前大統領夫妻や「親尹派」クォン・ソンドン議員への支援、そして信徒らの「国民の力」への集団入党疑惑だ。
特検の調べによれば、韓鶴子総裁は世界本部長(2020~23年)を務めたユン・ヨンホ氏に対し、キム・ゴンヒ夫人への贈り物やクォン・ソンドン議員への政治資金支援を指示した疑いがあるという。
ユン・ヨンホ氏は第20代大統領選挙直前の2021年12月、ソウル永登浦区の近郊でクォン・ソンドン議員と会い、教団の懸案を依頼するとともに、大統領選への支援などを約束した。「国民の力」や大統領室などに信徒を登用してほしいという要請も行った。特検チームは、これについて韓鶴子総裁と当時総裁秘書室長だったチョン・ウォンジュとの共謀があったと疑っている。
また、教団側が2022年1月にクォン・ソンドン議員へ1億ウォン(約1000万円)を渡し、ユン・ヨンホ氏が同年10月にクォン・ソンドン議員から韓鶴子総裁とチョン・ウォンジュ前秘書室長の海外遠征賭博疑惑に関する捜査情報を入手した、というのが特検側の見方だ。
これは、ユン・ヨンホ氏が2022年4~7月に韓鶴子総裁の承認の下、チョン・ソンベ氏を介してキム・ゴンヒ夫人にシャネルのバッグ2点とグラフのネックレスなどを提供したとされる疑惑(不正請託および金品授受禁止法、いわゆる請託禁止法違反)とは別件である。
特検チームは、ユン・ヨンホ氏が2022年にクォン・ソンドン議員だけでなく、大統領当選人の身分だった尹錫悦前大統領と単独会談を行い、さらにキム・ゴンヒ夫人と電話で通話するなど、当時の執権勢力と接触した背景には、韓鶴子総裁の承諾があったと見ている。
これに関連して、ユン・ヨンホ氏とキム・ゴンヒ夫人らを対象とした公訴状には、韓鶴子総裁およびチョン・ウォンジュ前秘書室長の共謀疑惑が明記された。旧統一教会側はこれについて、一貫して「ユン・ヨンホ氏の個人的な決定」であり、教団とは無関係だとして線を引いてきた。
しかし旧統一教会は、特検チームの追及を免れることは難しいとみられる。
裁判所が9月16日にクォン・ソンドン議員に対する逮捕前被疑者尋問(令状実質審査)を行った結果、逮捕状を発布したことも、教団にとっては逆風だ。宗教団体関連のさまざまな疑惑に関わったユン・ヨンホ氏やチョン・ソンベ氏、キム・ゴンヒ夫人もすでに相次いで拘束されている。
特検チームは9月18日午前、韓鶴子総裁とチョン・ウォンジュ前秘書室長に対し、政治資金法違反、請託禁止法違反、証拠隠滅教唆、業務上横領などの容疑で逮捕状を請求した。信徒による「国民の力」への集団入党疑惑(政党法違反)についても、さらに捜査を続ける方針だ。
この過程で特検チームは、クォン・ソンドン議員が2022年2~3月に韓鶴子総裁から現金入りのショッピングバッグを受け取り、同年末には韓鶴子総裁らの海外遠征賭博に関する警察捜査情報を教団側に伝え、捜査に備えるようにしたという疑惑についても本格的に調べる計画だ。
ユン・ヨンホ氏の公訴状によれば、旧統一教会は「真の父母(韓鶴子総裁)の意志が実現する国をつくらなければならない」という韓鶴子総裁の政教一致イデオロギーに基づき、権議員を通じて尹錫悦前大統領へ、またチョン・ソンベ氏を通じてキム・ゴンヒ夫人へ金品を提供した。
それだけではない。キム・ゴンヒ夫人関連の疑惑から始まった捜査は、第1野党にまで拡大した。
特検チームは、家庭連合幹部らが2023年の「国民の力」党大会を前に信徒に入党申込書を配布するなど、「国民の力」党大会への介入(政党法違反)の疑いがあると見ている。韓鶴子総裁やユン・ヨンホ氏などの高位幹部らが接触してきたクォン・ソンドン議員が、党代表選に出馬した党大会で、彼を支援するのが目的だったというのが特検チームの判断だ。
特検は、「国民の力」に加入した信徒の名簿と、同時期に党に加入した党員名簿を照合する必要があると説明している。
こうした背景から特検チームは8月13日と8月18日、「国民の力」中央党本部などへの家宅捜索を試みた。「国民の力」は初回の押収捜索時に「特検チームが500万人の党員名簿を要求した」と反発した。その後、押収捜索令状の期限が8月20日に切れたため、特検チームは改めて令状を請求し、9月18日に押収捜索に踏み切った。
韓鶴子総裁は特検チームによる最初の取り調べで、関連容疑をすべて否認したと伝えられている。被疑者に保障された権利である黙秘権も行使しなかったという。
韓鶴子総裁は旧統一教会の正式な決裁ラインに入っていなかったため、ユン・ヨンホ氏から政治資金支援などについて報告を受けていなかったというのだ。
9月17日午前、随行員に支えられて特検事務所へ向かった韓鶴子総裁は、午後に調書閲覧を終えると車椅子に乗って出てきた。キム・ゴンヒ夫人やクォン・ソンドン議員への金品提供疑惑について記者から問われると、「私がなぜそんなことをしなければならないのか」と答えた。
しかしユン・ヨンホ氏は同日午後、ソウル中央地裁で開かれた自身の初公判で、クォン・ソンドン議員への政治資金提供や、キム・ゴンヒ夫人に渡す贈り物をチョン・ソンベ氏に託した疑惑などについて、大筋で公訴事実を認めた。
(記事提供=時事ジャーナル)
■『週刊文春』が報じた旧統一教会の“遠征賭博資金”を追及し始めた韓国検察
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