「権力は10年も続かず、咲き誇る花も十日とはもたない(権不十年、花無十日紅)」
韓国の最高権力を握った尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領は、5年の人気を全うすることなく不名誉な退陣を迎えた。
非常戒厳令の布告という選択は、特別検察(以下、特検)による捜査局面の幕開けとなった。この3年の間に一体、何があったのか。
キム・ゴンヒ夫人は8月12日、歴代大統領夫人の中で、初めて逮捕・収監されるという歴史を記した。内乱首謀の容疑で収監された尹前大統領とともに、大統領経験者夫婦が同時に拘束されたのは憲政史上初である。
キム・ゴンヒ側が拘束の瀬戸際で「花が散った(権力から離れた)以上、証拠隠滅や口裏合わせの恐れはない」と述べつつ持ち出した“花無十日紅”のことわざは、かえってキム・ゴンヒがファーストレディとして過ごした時間への疑念を増幅させている。
この3年間を追跡する特検は、16件“+α”に及ぶ疑惑を捜査している。キム・ゴンヒ逮捕の決定打となったのは、ソヒ建設のイ・ボングァン会長による「ヴァンクリーフ&アーペルのネックレス提供」を認める自白書だ。
ソヒ建設は、第20代大統領選挙で尹前大統領を支援した疑惑も持たれている。こうしたなか、同社が尹前大統領の非公式組織「良才洞秘密キャンプ」に事務所を提供しながらも、家賃を受け取った記録がないことを捜査チームが確認したと、現地メディア『時事ジャーナル』の取材で分かった。むしろ、同社が運営資金を支援したとされている。
複数の状況証拠を掴んだ特検は、金銭や資金提供の見返りの有無を調べており、金品問題から霊媒師、宗教団体、統一教会に至るまで、捜査の進展次第で波紋が広がる見通しだ。
キム・ゴンヒが逮捕される決定的なきっかけとなったのは、ヴァンクリーフ&アーペルのネックレスに関する虚偽証言だったとされる。
キム・ゴンヒは2022年6月のNATO首脳会合出席時に、6200万ウォン(約660万円)相当の同ブランドのネックレスを着用していた。しかし尹前大統領が、申告対象(5000万ウォン以上)となる同ネックレスを公職者財産申告に記載していなかったことで物議を醸した。
当時、大統領室は「知人から借りた」と説明していたが、イ・ボングァン会長は最近、ミン・ジュンギ特別検事の捜査チームに「キム・ゴンヒに提供した」とする趣旨の自白書を提出した。特検チームは7月、キム・ゴンヒの実兄キム・ジヌ氏の義母宅で模造品を発見したが、キム・ゴンヒは「母への贈り物用として、20年以上前に香港で購入した偽物」と説明。その証言の信憑性は、提供者であるイ・ボングァン会長の自白によって崩れることとなった。
キム・ゴンヒが容疑を免れようと画策した形跡もある。キム・ゴンヒ“門番3人衆”の一人、ユ・ギョンオク前大統領室行政官は7月25日以降、複数回にわたってソウル鍾路(チョンノ)区の特検事務所で取り調べを受けた際、「キム・ゴンヒが大韓民国を“偽物の共和国”にした」と証言したという。初回の聴取日は、特検チームが尹前大統領夫妻の自宅やキム・ゴンヒの母であるチェ・ウンスン氏、実兄の事務所などを家宅捜索した日だった。
この日、京畿道南楊州市(キョンギドナミャンジュシ)の義母宅からヴァンクリーフ&アーペルの模造品が発見されたが、ユ・ギョンオク前行政官は、まるでその存在を知っていたかのように証言した。特検チームは、キム・ゴンヒが側近らと組織的に口裏合わせや証拠隠滅を図ったと疑っている。
ここでの焦点は、見返りの有無だ。まずはソヒ建設と尹政権との関係に注目が集まる。
同社はキム・ゴンヒ逮捕に一定の役割を果たしたが、尹前大統領を支援した企業の一つでもある。2021~22年の大統領選期間中、霊媒師の「コンジン法師」ことチョン・ソンベ氏は当時、与党「国民の力」の大統領候補だった尹氏を支援する組織を作った。その象徴がソウル瑞草区良才駅近くに設けられた“秘密キャンプ”だった。
事務所はソヒ建設本社ビルの2階にあり、公式な選対とは別の“裏組織”だった。家賃相場は保証金2億ウォン(約2000万円)、月額1000万ウォン(約100万円)台だが、選挙支援組織が使用していたこの場所の賃料がソヒ建設に支払われた記録はないとされる。
数十人が入れる秘密キャンプの事務所には、選挙支援活動を行う環境が整っていたという。実際に事務所が稼働していたとの周囲の証言もあることから、キム・ゴンヒらがここでネット世論操作を行っていたとの話も出ている。
さらに、事務所運営資金にソヒ建設が関与したという証言もあった。大統領選キャンプへの支援疑惑の背後で暗躍していたとされるチョン・ソンベ氏は、キャンプ関係者に「ソヒ建設が間接的に支援している。尹政権になれば恩恵を受けられる」と公言していたという。
実際、大韓建設協会の発表資料(2024年度)によると、ソヒ建設の市場シェアは2020年の33位から2022年に21位、2023年に20位、2024年に18位へと上昇していたことがわかる。同社は3月の営業報告書で「最近は地域住宅組合が発注する民間工事を主力とし、韓国土地住宅公社(LH)、デベロッパー、調達庁などから多数の民間・官庁工事を受注している」と紹介し、「安定した売上基盤をもとに、差別化された収益モデルの下、事業の安定性と成長性を追求している中堅建設会社」としている。
『時事ジャーナル』はキャンプの家賃支援などについてソヒ建設に数度問い合わせたが、回答は得られなかった。
現在、秘密キャンプに参加した一部関係者は捜査線上に浮上している。尹政権の大統領室・警察人事への介入疑惑が持たれるキム氏(チョン・ソンベ氏の義弟)や、企業の渉外部出身のノ氏などだ。チョン・ソンベ氏は党予備選後、党選対本部組織本部傘下のネットワーク本部で常任顧問を務め、この間、チョン・ソンベ氏に選挙状況などを随時報告していたオ・ウルソプ元ネットワーク本部委員長も捜査対象となっている。ネットワーク本部は「コンジン法師論争」を受けて解体となったが、チョン・ソンベ氏の選挙キャンプへの関与問題は続き、クォン・ソンドン国民の力議員ら“親尹派”と連絡を取り合った記録も確保されている。
特検チームの捜査網はさらに広がっている。グラフのネックレス、シャネルのバッグなどをチョン・ソンベ氏経由でキム・ゴンヒに提供したとされる「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の全世界本部長ユン・ヨンホ氏による請託事件は、教団全体の問題に発展しかねない。教団側からの贈り物や資金提供は内部でも公然の秘密だったとされる。
これに関し、ユン・ヨンホ氏はハン・ハクチャ総裁や秘書室長のチョンシ氏らを名指しし、「上層部の決裁を受けた」と主張したという。しかし、教団側は「ユン・ヨンホ氏の個人的な行為」として線引きした上、クォン・ソンドン議員も疑惑を否定している。だが、尹氏の逮捕状にクォン・ソンドン議員関連の政治資金法違反容疑が明記され、さらに第20代大統領選直前に教団を訪れていた事実が判明し、論争は一層激しくなっている。
(記事提供=時事ジャーナル)
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