世界韓流学会理事が語っていた「日本“経由”で世界に広がる韓流と嫌韓流」

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政治的、歴史的な問題で葛藤を見せる日本と韓国。政治、経済など多岐にわたる分野で関係悪化が見られたが、文化・芸術・スポーツ・エンターテインメントの交流は活発だ。

特に韓流ブームの盛り上がりは凄まじい。BTSに『愛の不時着』など音楽やドラマなど大盛り上がりだ。

人気絶頂のBTS、それゆえに絶えない批判・トラブル・不満の数々

しかし、ほんの数年前は沈静化していた。地上波で放送されていた韓国ドラマは減少し、音楽番組からはK-POPスターが消えていた。その根底にあるものと日韓関係の行方を探るべく、2015年3月末にとある人物を訪ねたことがある。

世界韓流学会の総務理事を務めていた高麗大学オ・インギュ教授だ。

1962年生まれのオ・インギュ教授は、アメリカのルーズベルト大学を卒業し、オハイオ州立大学政治学修士課程、オレゴン大学社会学博士課程を修了。

ニュージーランド国立ワイカト大学助教授、カリフォルニア大学バークレー校客員教授、トルコ国立中東技術大学客員教授、英ブリストル大学副教授などを経て、当時は高麗大学民族文化研究院教授職にあった。

世界韓流学会の総務理事を務めていた高麗大学オ・インギュ教授だ

また、世界韓流学会の総務理事・総務総長も務めており、著書に『Mafioso, Big Business and the Financial Crisis: The State-Business Relations in South Korea and Japan』、『Japanese management : past, present, and future』など、韓日関係に関するものも多かった。

今から5年以上も前のインタビューだが、示唆するものも多いのでここに全文を紹介したい。

日本を“踏み台”に世界へ進出?

――日本では韓流ブームが終わったという見方があります。オ教授はどのようにお考えですか?

韓流ブームが終わったという人もいるようですが、専門家の立場からいえば、まだまだ韓流は活発です。

2015年2月に始まった東方神起の日本5大ドームツアーには75万人の観客が動員されたと聞きますし、レンタルビデオショップで韓流コーナーを設置している店舗もありますよね。

韓流ブーム全盛期のように、新大久保に人が溢れるということはなくなりましたが、韓流ファンのメーン層である主婦たちは、自宅で韓流コンテンツに触れています。DVDや衛星放送、インターネットを使って個々に韓流を楽しんでいるので、外からは見えづらくなっているのかもしれません。

つまるところ、日本における韓流はブーム期を経て、ある程度の定着を見せたといえると思います。

実際に、日本の外務省は2012年の外交青書において「韓流が世代を問わず幅広く受け入れられ」という表現を使っていますし、現在も韓流コンテンツの輸出における最も大きな市場は日本なのです。

現在、韓流は日本やヨーロッパをはじめとして世界各国に広がっています。

米国、中南米、アフリカにも進出しており、ジンバブエにも韓流ファンがいるんですよ。

韓流を一つの研究テーマとする学者たちも増えており、私が総務理事を務めている世界韓流学会も、そんな学者たちによる研究機関です。ちなみに世界韓流学会は、日本、米国、オーストラリア、ニュージーランド、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、台湾、英国、ドイツ、イスラエル、スウェーデンなど、世界19カ国に海外支部を持っています。

――韓国ドラマやK-POPなどの韓流が世界各国に広がっているということですが、そこには何か特別な理由があったのでしょうか。

韓流の世界進出は、日本を経由して実現したといえます。韓国には日本を通して欧米の大衆文化が入ってきましたが、韓流は日本を通して世界に広がりました。

ヨーロッパや米国の韓流ファンに「どうやって韓流を知ったのか」と聞いてみると、もともとJ-POPのファンだったという人が意外に多いのです。

外国人がアジアを訪れるときは、まず日本に目が向くでしょう。まず韓国に行ってみようと思う人は少ない。日本を訪れ、日本の文化に触れた外国人たちがサブカルチャーとして、韓流の存在を知ることになります。

韓流はあくまでサブカルチャーにすぎません。サブカルチャーが世界に認められるためには信頼のある“媒体”が必要なのですが、その役割を担ったのが結果的に日本なのです。

もし韓流ブームが最初に起こった国が日本ではなく、台湾や香港、中国だったとしたら、韓流は今ほど世界に広がっていなかったと考えています。というのも、これまで数々の良質なコンテンツを世界に輸出してきた日本において韓流ブームが起こったからこそ、世界の人々が韓流に注目したからです。

日本でブームになった大衆文化というところに、韓流の付加価値が生じたといえるでしょう。韓流の世界進出は、日本なしには成し得ませんでした。

現在は韓流が世界的に広がったので、日本を介することなく韓流に触れる外国人も増えています。

韓流が日本を経由する必要がなくなったのは2010年頃からだと思います。それを証明したのが2012年に発表された男性歌手PSY(サイ)の『江南スタイル』でしょう。ヨーロッパで火がつき、YouTubeの再生回数が20億回を超えて世界的な大ヒットとなりました。

逆に世界でヒットしたから、日本でも注目されたと聞いています。韓流の新しい可能性を示したケースといえるでしょう。

――その一方で、現在の日本は「嫌韓ブーム」が起きているといわれています。その影響は他国にも広がっているのでしょうか。

他国にも広がっています。台湾、香港、シンガポールなどでは、日本で「嫌韓流」の動きが起きているからと、自分たちも一度見直すべきだとの声が出ています。

韓流を世界に広げる媒体となった日本を経由して、現在は嫌韓が世界に広がっているのです。

日本の嫌韓流の動きは、内閣府世論調査にも表れています。日本人の韓国に対する親近感は、2011年に「親しみを感じる」が62.2%、「親しみを感じない」が35.3%だったのに対し、2012年には数字が逆転して、「親しみを感じる」が39.2%、「親しみを感じない」が59.0%となっています。このデータを見る限り、日本の嫌韓感情が急上昇しているように見えます。

ただ、私はそうは分析していません。

そのデータをもう少し大局的に見てみると、1996年は韓国に「親しみを感じる」が35.8%、「親しみを感じない」が60.0%だったのです。それ以前も親近感を感じない人が、半数以上となっています。

つまり、韓流ブームが起こる以前の数字と現在の数字で、韓国に対する親近感はほとんど変わっていないことがわかります。

ですから現在の日本の状況は、嫌韓感情が上昇したというよりも、正確には“戻った”と表現すべきでしょう。90年代に日本人が抱いていた韓国に対する感情と、現在の感情には数字的にほとんど差がないのですから。広い視野で見れば、韓流ブームが起こった2000~2012年の数字だけが特別だったのです。

あえてポジティブに捉えるのであれば、韓流が日本に進出する以前は、日本の韓国に対する親近感がまったく上がらなかった。先ほどの日本の内閣府世論調査において、70年代からのデータを見ていくと、「親しみを感じる」と答える人の数字はずっと横ばいです。

それが一時的だったとしても、韓流によって親近感が上がったということは注目に値することではないでしょうか。韓流が日本人の韓国に対するイメージ上昇に、一石を投じたことだけは間違いないでしょう。

――それでも日本で韓流ブームが一息ついたことだけは間違いないと思いますが、その原因を「韓流コンテンツの質の低下」と見る韓流ファンもいます。その点については、どうお考えでしょうか。

たしかに目の肥えた日本の韓流ファンは、韓国ドラマをはじめとする最近の韓流コンテンツの質が下がっていると指摘しています。誤解があるようですが、実は韓流コンテンツはもともと質が低いのです。

その証拠に2000年代の韓流ブームが起こるまで、日本人は誰も韓国ドラマを見ませんでしたよね? 単純に日本のドラマの方が面白かったからです。『冬のソナタ』や『宮廷女官チャングムの誓い』を見て印象が変わるわけですが、当時は数ある韓国ドラマのなかでも本当に質の良い一部のドラマが日本に入っていました。だから韓国ドラマの質が上がったと感じたのだと思います。

ところが最近は、質の良し悪しにかかわらず、数多くの韓国ドラマが日本で放送されるようになりました。

その背景には韓国の制作会社の売り込みもあるでしょうが、韓国ドラマを求める日本の配給会社があるからでしょう。韓国で酷評されたドラマが日本に進出している実例は、枚挙にいとまがありません。

良いドラマがない、でも日本で売らなければならない。

その結果、「なんでもいい」となって、質の悪い韓国ドラマも日本に進出しているのが現状です。

では、なぜ良質の韓国ドラマが生まれづらいかというと、根本的に制作費や人材が不足しているからでしょう。視聴率を確認しながら台本を修正していく“断片台本”にも一因があると思います。

ただ、私が最も懸念しているのは、韓流コンテンツがインドネシアやタイ、フィリピン、ベトナムなどに大量に入ることで、文化侵略になるのではないかという批判を集めていることです。国によって文化の違いがあり、それを尊重しない行為は文化侵略になる恐れがあります。韓国政府主導の下、発展途上国に進出して、韓国料理、韓服などをやたらと宣伝する行為は、文化侵略につながりかねません。

――文化侵略と韓流の進出には明確な違いがあると?

文化侵略というのは、文字や民族衣装などの自国の“伝統文化”を他国に強制する場合に起こるものだと考えています。ですから、K-POPや韓国ドラマなどに代表される韓流と、韓国伝統文化はまったく別物と区別して考える必要があると思います。

そもそも韓流は、本質的には韓国文化とはいえないでしょう。

K-POPは韓国の伝統的な音楽ではなく、ごく一般的なヨーロッパ音楽を韓国人が歌って、踊っているだけです。K-POPの楽曲は、もともとヨーロッパから輸入されたものがほとんど。芸能プロダクションがスウェーデンやデンマーク、英国などから曲を買ってきて、韓国風にアレンジしているわけです。

なぜ楽曲を輸入するかというと、単純な話で、韓国の作曲家に作らせると質が下がるから。いずれにせよ、韓流はグローバルカルチャーをプロモーションしているだけで、文化侵略を行っているわけではないのです。

ちなみに韓流の日本進出、特にK-POPに関しては、韓国政府のゴリ押しがあったのではないかという指摘をよく耳にしますが、それは事実とは異なります。

というのも、K-POPはほとんど政府に支援されていません。むしろ私が知る限り、韓流のなかで最も支援を受けていないジャンルがK-POPなのです。

韓国では、政府が「韓流」と認めたジャンルのコンテンツ輸出に際し、コンテンツホルダーは政府から支援を受けることができます。輸出支援の規模は年間総額5000億ウォン(約500億円)。韓流を定義するのは文化体育観光部(日本の文部科学省に相当)で、ドラマ、K-POP、スポーツ、ゲームなどのエンターテインメントだけでなく、国学やハングルなども「韓流」として指定されています。

様々なジャンルのなかで最も政府から支援を受けているのがハングルです。世界60カ国にハングル学校が作られており、そこに多くの支援金が流れています。

一方のK-POPはというと、「個別に稼いでいるのだから政府から支援を受ける必要はない」と、他ジャンルの業界から責められている状態です。K-POPに比べれば、国学やオペラ、クラシックの方が政府主導の支援を受けているわけです。韓国政府が韓流コンテンツを輸出するために活動していることは確かですが、ことK-POPの輸出に関しては、ほとんど影響を与えていません。

やはり、日本の役割が大きかったと思います。

――日韓は国交正常化50周年を迎え、安倍晋三首相は記念式にて「日本にとっては韓国が、韓国にとっては日本が最も重要な隣国」と改めて強調しました。しかし、日韓ともに相手国への感情的な対立があるように感じます。

現在の日本は韓流ブームから嫌韓時代に入っています。先ほど述べたように、日本の嫌韓感情は、韓流ブーム以前に戻った状態です。それは韓国の反日感情にもまったく同じことがいえます。

韓国ギャラップの世論調査によると、1997年に「日本に好感を持つ」という韓国人は全体の24%、「好感を持たない」という人は75%でした。そこから、2002年の韓日ワールドカップや、日本での韓流ブームの影響を受けて、2011年には「好感を持たない」が44%にまで減少しています。

しかし現在は、再び70%台に戻っています。日本の嫌韓感情と韓国の反日感情は似たような推移を見せているわけです。

韓国で反日感情を強く持つ層は、国粋主義、民族主義と呼ばれる人たちです。私が見る限り、彼らはイデオロギーを信じ込むタイプの人たち。現実が見えていないと思います。

日本は韓国にとって最も近くにある隣国であり、韓国全体の外国直接投資(FDI)は米国が1位で、日本が2位です。経済的にも韓国と日本はとても密接な関係にあるわけです。感情的な対立を繰り返していて、どんなメリットがあるのでしょうか。

さらに、私が理解できないのは、日本のいわゆる嫌韓層の人たちが韓国と日本を比較しているところです。

韓国は日本を追いかけることができません。経済力や軍事力をはじめ、国力全体が日本と比べるレベルまでたどり着いていないからです。それを日本の知識人たちはみんな知っています。

特に教育や技術力などは相手にならない分野でしょう。日本は毎年のようにノーベル賞を受賞していますが、韓国には、平和賞の金大中大統領以外にノーベル賞受賞者がいません。その差はとてつもなく大きいものだと思います。

韓国の基本的な技術はすべて日本から習ってきたものです。日本が教えてくれなければ、どこで習えるのでしょう。もちろん、最近は多くの韓国人が米国で直接、現地の技術を学んでくることもありますが、一番簡単なのは日本から学ぶことです。距離が近いのはもちろん、社会制度や法制度も似ているのですから。いまだに日本への依存度は高く、日本を追い越すというのは不可能だと思います。

そのような現状でありながら、日本が韓国に対して何か焦りや苛立ちを感じているのであれば、それは間違った危機意識だと思います。

――感情的な対立であればあるほど、文化が果たす役割は少なくないと思います。次の日韓の50年を考えた場合、文化交流が果たすべき役割をどのように考えますか。

日本と韓国の関係において最も重要なことは、地域でパートナーシップを構築することです。

私が望むことは、東アジアが西ヨーロッパのようにひとつの共同体となること。ドイツ、フランス、英国の3カ国はもともと敵対国でした。世界大戦を2度も経験したわけですが、現在は矛盾を抱えながらも協力関係を築いています。東アジアの韓国、日本、中国の3国も矛盾を抱えながらでも共同体を作れるのではないかと思います。

そして、ヨーロッパ全体のリーダーをドイツ、フランス、英国が担っているように、アジア全体のリーダーを韓国、日本、中国が務めればいいのです。西ヨーロッパ3カ国がモデルです。

韓国、日本、中国の相互理解を図るために、文化の交流が一つの役割を果たすと考えています。

3カ国の若者がひとつの場所に集まって、大衆文化で交流することは最もたやすい相互理解のための行動です。

日本のアニメを韓中日の若者や子供たちが一緒に観賞するイベントを開くのもいいでしょう。日本のアニメは、とても普遍的な価値である「愛」「平和」「友情」がテーマとなることが多いので、誰もが共感を持てるはずです。

そして中国はアクション映画を作り、韓国は身の丈に合わせてドラマやK-POPを作る。こうして挙げてみるだけでも、素晴らしいアジア文化が生まれるのではないかと思いませんか。

英国、ドイツ、フランスの3カ国は、互いに学び合ってヨーロッパ文化を発展させています。韓国は1910年から日本の文化が入っており、ここ20年で日本も韓流を知るようになりました。

アジア文化を発展させるために韓国、日本、中国がまずは文化交流から協力できればと強く思います。そのためにも世界韓流学会でも、韓国、日本、中国の文化交流、学術交流を推進していきます。

――貴重なご意見、ありがとうございました。

(文=呉 承鎬)

※この原稿は『日経ビジネスオンライン』(2015年6月30日)に寄稿した記事を加筆・増補したものです。

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