韓国の次期大統領候補としてトップを走るのは最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表だが、それに続く支持率2位は、与党「国民の力」のキム・ムンス雇用労働部長官だ。
そのキム・ムンス長官の歴史観をめぐる発言が、韓国で大問題となっている。
キム・ムンス長官は2月14日、国会の対政府質疑で「日帝時代(日本統治時代)の金九(キム・グ)先生、安重根(アン・ジュングン)義士、尹奉吉(ユン・ボンギル)義士の国籍は何か」とのチェ・ミンヒ議員の質問に対し、「安重根義士は朝鮮国籍であり、金九先生は中国国籍を持っていたという話もあり、歴史学者がすでに研究している」と答えた。
金九の国籍を「中国」と発言したことが大きな議論となった。
1876年生まれの金九は韓国において、独立運動家の象徴のような人物だ。日本の植民地支配下の朝鮮で1919年3月に起こった「三・一運動」の後に上海に亡命し、大韓民国臨時政府の最高指導者として活動した。
この大韓民国臨時政府は、現行の韓国憲法の全文で「悠久の歴史と伝統に輝く我が大韓国民は三・一運動により建立された大韓民国臨時政府の法統と不義に抗拒した4.19民主理念を継承し…」と言及されているように、韓国の“前身”ともいえる重要な組織だ。
その大韓民国臨時政府の最高指導者となった金九の国籍を中国と発言したため、キム長官の発言が問題視されるのは想像に難くない。
実際に、金九の曾孫である最大野党「共に民主党」のキム・ヨンマン議員は、2月17日に国会で記者会見を開き、「キム・ムンスは大韓民国の長官どころか、国民としての資格すらない」と厳しく批判した。
さらにキム・ヨンマン議員は「祖父が墓から飛び起きるような発言であり、数多くの独立運動家が地下で慟哭する歴代級の妄言だ」と述べ、「大韓民国臨時政府の主席がどうして中国国籍を持つことができるのか」と語気を強めた。
では、なぜキム・ムンス長官はこのような発言をしたのか。ここには彼の歴史観が深く関係していると考えられる。
というのも、キム・ムンス長官は昨年8月に開かれた人事聴聞会で「日帝時代、私たちの先祖の国籍は日本だった」と発言しているからだ。同じ趣旨の発言は、同年10月の国政監査でも繰り返された。
その真意について、彼は「我々の国民が海外に行く際など、様々な場面で国籍が明記される必要があるが、『日本帝国のパスポート』といった形で表現されているものが多い」と述べ、「当時、我が国と結ばれた条約や日本の法律、朝鮮総督府の法令のいずれにも『大韓民国の国籍』という部分は存在しない。これが現実だ」と答弁している。
たしかに歴史的な事実を見ると、1910年8月の「韓国併合に関する条約」によって、大日本帝国が大韓帝国を併合して統治下に置いており、その結果、韓国は1945年まで日本の一部となった。
キム・ムンス長官の主張通り、当時韓国は存在しておらず、国籍もなかったということになる。
しかし、韓国は「いわゆる日韓併合条約および、それ以前に大韓帝国と日本帝国の間で締結されたすべての条約、協定、議定書など、名称を問わず、国家間の合意文書はすべて無効である」との公式立場を取っている。
これは2024年8月に発表された韓国外交部の答弁書で、「我が政府の立場」として引用された「大韓民国と日本間の条約および協定解説」(1965年7月5日発刊)に明記された内容だ。
そのためキム・ムンス長官の主張は、断固として認めることができないといえるだろう。
金九の国籍を中国としたキム・ムンス長官に対して、オンライン上では「キム・ムンスは日本人なのか?」「金九の国籍が中国だったら、どうして1948年の韓国の大統領選挙に出馬できたのか」「こんな人物が保守派の大統領候補だなんて信じられない」といった批判の声が相次いだ。
保守層から次期大統領候補の有力候補とされるキム・ムンス長官だが、今回の発言が支持率に影響を及ぼす可能性がある。
(文=サーチコリアニュース編集部O)
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