ロシアに派兵中の北朝鮮を「核保有国」と呼称…米朝首脳会談を見据えたトランプ第2期政権の“地ならし”か

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トランプ第2期政権の国防長官指名者であるピーター・ヘグセス氏が、北朝鮮を「核保有国(nuclear power)」と呼称した。

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これはアメリカ上院の人事聴聞会における書面での質疑応答のなかでのことだった。北朝鮮の核能力が朝鮮半島のみならず、インド太平洋地域や世界全体の安定に対する脅威となっているという評価であった。

アメリカ当局者がこれまで使用を控えてきた「核保有国」という表現が公然と使われたことにより、アメリカ政府がこれまで維持してきた北朝鮮の非核化目標に重大な変化が生じるのではないかという懸念が各所で提起された。

ヘグセス氏が使用した「核保有国」という表現は、国際法上の核拡散防止条約(NPT)によって核兵器保有が認められているアメリカ、中国、ロシア、イギリス、フランスの5カ国を指す「核兵器国(nuclear weapon state)」よりも広い概念だ。

国際法上、「核兵器国」は一般名詞ではなく、これら5カ国を特定する固有名詞に近い。一方、「核保有国」はこの枠には含まれないものの、高度な核能力を有する国家を指す言葉として使用される。例えば、インド、パキスタン、イスラエルのように、規範的には核兵器保有が認められていないが、事実上核兵器を有している国がこれに含まれる。

これまでアメリカ政府は、NPTおよび国連安保理決議に違反して核開発を進めてきた北朝鮮を「核兵器国」はもちろん、「核保有国」と呼ぶことも控えてきた。

金正恩国務委員長(左)とトランプ大統領
(写真=シンガポール政府)2018年6月12日、シンガポールで首脳会談を行った金正恩国務委員長(左)とトランプ大統領

アメリカ国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー国家安全保障報道官も1月14日のブリーフィングで、「次期(トランプ政権)安全保障チームがそれをどう定義するかについては私から申し上げることはできない」としながらも、「我々はこれを認めていない」とこれまでの立場を再確認した。

しかし、この立場がトランプ第2期政権で変わる可能性はかなり高くなっている。

聴聞会の書面回答で現れた「北核保有国」表現

一部では、ヘグセス氏が過去10年間、FOXニュースの解説者として活動するなかで、様々な問題に対して表面的な知識でコメントしたことがあり、今回もその延長線上での誤りかもしれないという評価もある。

しかし、一介の解説者だったときとは異なり、国防長官指名者として連邦議会上院に提出した書面回答の重みはまったく異なる。即席の口頭回答であれば、表面的な理解からくる誤りとして弁明できるかもしれないが、今回は書面回答だ。この「核保有国」という表現が意味深い理由でもある。

さらに深い解釈をすれば、今後の米朝首脳会談を見据え、トランプ政権が徐々に準備を整えながら「ビルドアップ」を進めている過程とも見て取れる。

昨年の大統領選挙キャンペーン期間中、トランプが何度も金正恩(キム・ジョンウン)との個人的な関係を強調してきたことが出発点だとすれば、政権が始まったばかりの現在、さらに具体的に地ならしをしているということだ。

北朝鮮の高度化された核能力と過去に開発した核を事実上認めつつ、トランプ時代には北朝鮮がそれ以上、核開発を進めないという現状凍結で折り合いをつける段階に進むのではないかとの推測も成り立つ。

トランプが任期初年にロシア・ウクライナ戦争や中東ガザ紛争の終結に注力するあまり、北朝鮮との直接対話を急いで試みない可能性も高い。しかし、準備を進めながら徐々に動き出しておく必要はある。今年末や来年初めから本格的な米朝対話が可能となるためだ。

北朝鮮もロシア・ウクライナ戦争が終結するまでロシアとの関係を深めつつ、今年10月の朝鮮労働党創建80周年記念や来年初めの第9回党大会を経て内部を整えた後、本格的な米朝対話に乗り出す可能性が高い。

もちろん、トランプがロシア・ウクライナ戦争や中東ガザ紛争を思うように解決できなければ、年内に突然方向転換し、対北接近を急ぐ可能性もある。その可能性に備えるためにも、北朝鮮を「核保有国」と呼んで対話を誘導するビルドアップは不可欠だ。

金正恩国務委員長(左)とトランプ大統領
(写真=シンガポール政府)金正恩国務委員長(左)とトランプ大統領

また、同盟国である韓国が少なくとも上半期までは政権交代期にあるため、特に配慮せずに「パッシング(無視)」して速度を上げることも可能だろう。もちろん、金正恩がすでに昨年11月、アメリカとの交渉は行き着くところまで行ったと予防線を張ったが、一方的な非核化協議ではなく核軍縮協議を提案した場合、北朝鮮がどのように反応するかは今後注目されるところだ。

「トランプには『自由主義西側世界のリーダー』という概念がない」

「ハノイ・トラウマ」を抱える金正恩を浅はかな手段で対話の場に引き込むのは容易ではないだろう。

しかし、わずか4年の任期の中で大きな業績とレガシー(legacy)を残す必要があるトランプにとって、不可能なことでもないという見方が多い。

日本の安倍晋三元首相の回顧録に記されている評価の通り、トランプには「自由主義西側世界のリーダー」という概念がないというのは周知の事実だろう。安倍が会ったビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマはすべて西側世界のリーダーとしてのアイデンティティを持っていたが、トランプはまったく異なる大統領だったという。

北朝鮮の「核保有」を認め、アメリカ本土を脅かす大陸間弾道ミサイル(ICBM)を解体し、これ以上生産しないことでアメリカが安全になるのであれば、トランプは同盟国である韓国や東北アジアの安全保障には大して関心を持たない可能性が高い。

こうした状況がもし展開した場合、韓国も独自の核武装を主張し、「核保有国」への道を進むべきなのか。

これまで国際規範を遵守する模範国家を標榜してきたが、突如として北朝鮮のように「核保有国」として認めてほしいと主張した場合、はたしてどれだけの国がこれを受け入れるだろうか。

また、我々が独自の核武装を行った場合、日本や台湾は黙っているだろうか。能力のある国々がすべて「核保有国」となり、緊張の均衡を通じて核の恐怖による平和を作り出そうという逆説を、どれだけの人が納得し受け入れるだろうか。

これらは、発足したばかりのトランプ政権はもちろん、アメリカ議会やワシントンの政界に絶えず問いかけるべき問題だ。

北朝鮮に対しても、現在保有するわずかな核能力で韓国の通常戦力に本当に太刀打ちできるのかどうかをよく考えるよう問いかけるべきだ。核を一発でも撃てば、韓国の「大量応報報復」に直面することに耐えられるのか、冷静に評価してみるべきだ。

そして、むしろ長期的な視点で南北間の通常兵器軍備管理や抑止力の均衡を図るための真剣な対話に臨むよう促すべきときといえるだろう。

トランプの就任以降、朝鮮半島を取り巻く「真実の瞬間(moment of truth)」に南北とアメリカが直面するときが徐々に近づいているように思える。

(記事提供=時事ジャーナル)

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