国際女性デーが45周年を迎えた3月8日。世界的に女性の人権向上への関心とその必要性を訴える声が高まっている。
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しかし、韓国社会では依然として女性の人権問題が主要な議論の場から外れている。
特に尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足後、「女性家族部の廃止」議論が公論化され、これまで積み上げてきた韓国女性の人権が後退するのではないかという懸念が広がっている。
尹錫悦大統領は就任前から「女性家族部の廃止」を主要公約に掲げ、「もはや構造的な性差別は存在しない」との立場を示していた。そのため、女性家族部の機能を保健福祉部や雇用労働部などに分散させるか、完全に廃止する案が議論された。
具体的には、女性の雇用や労働関連政策は雇用労働部が、女性に対する暴力防止や被害者支援業務は法務部と警察庁が担当するという内容だった。
中央政府のジェンダー平等政策の縮小は地方政府にも大きな影響を及ぼした。
慶尚南道は2024年、行政組織を改編し、女性家族局を廃止した。その役割は福祉女性局の女性家族課が引き継いだとされたが、女性家族部の廃止を掲げる尹錫悦政権の政策と歩調を合わせたものだとの見方がある。また、慶尚南道は昨年の「第3次男女平等政策基本計画」において、男女平等基金の造成を確約しなかった。
韓国のジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index)は世界でも低水準にある。
世界経済フォーラム(WEF)が発表した「2023年ジェンダーギャップ指数」によると、韓国は146カ国中99位だった。特に女性の経済参加および機会部門は115位で、性別間の経済的格差が依然として大きいことが明らかになった。
また、韓国統計庁が2024年発表した「韓国の持続可能な開発目標(SDG)履行報告書」によると、2022年の韓国の男女間賃金格差は31.2%で、OECD35カ国のうち最も高かった。OECD平均(12.1%)と比べると2.6倍の水準であり、格差が30%以上に及ぶ国は韓国だけだった。
韓国女性が日常で経験する差別や不条理も依然として深刻だ。
警察庁の統計によると、2023年の強姦犯罪の被害者の97.8%が女性だった。職場での性差別、キャリア中断、ガラスの天井(女性の昇進を妨げる見えない障壁)といった問題も続いている。
特に女性の管理職比率が依然として低く、意思決定の過程における女性の参加が制限されている。OECDによると、2021年時点で韓国の女性管理職の割合は16.3%で、OECD加盟国の平均(33.7%)の半分にとどまった。
国際女性デー45周年を迎え、『時事ジャーナル』の取材陣は20代から50代までの様々な年齢層の女性たちの声を聞いた。年代によって経験する性差別や人権侵害の問題は異なっていたが、共通して「女性が社会で経験する不平等は今も存在する」と彼女たちは語った。
大学や社会進出の過程でジェンダー感受性の欠如を経験するケースも多かった。パクさん(26歳・女性)は「以前の職場でインターンとして働いていたとき、上司と一緒にランチミーティングに行ったことがある。取引先の部長職の男性2人も同席していたが、そのうちの1人から『お兄さんに“おまかせ”を奢ってもらいなさい』と言われた」と語った。
結婚や出産に関する圧力が特に女性に強いという意見もあった。
キムさん(30歳・女性)は「仕事柄、多くの人と会う機会が多く、取引先とのミーティングも頻繁に行う。しかし、なぜか私には『結婚しているのか』と聞かれることが多かった」と話す。「さらに、『早く結婚して子どもを産みなさい』『少子化時代だから子どもをたくさん産むべきだ』といった不快な発言を多く受けた。男性だったら聞かれなかっただろう言葉を、女性だからこそ言われたと感じた」と述べた。
職場で「ガラスの天井」を経験するケースも多かった。キム・スンヨンさん(43歳・女性)は「女性管理職の割合は依然として低く、男性と同じ能力を持っていても昇進の機会から排除されることが多い」と指摘する。「また、家庭内の家事労働の負担が女性に集中する傾向も続いている」と語った。
老後の準備においても不利益を被る場合が多いという証言もあった。イム・ヒヨンさん(57歳・女性)は「男性よりも経済活動の期間が短く、賃金水準も低いため、年金格差が発生することが多い」と述べた。「家庭でのケア労働を女性が担わなければならない負担も大きい」と話している。
専門家たちは、女性の人権は社会発展の重要な指標であり、それを改善することは社会のすべての構成員の責務であると指摘している。
韓国社会がこれまで以上にジェンダー平等な方向へ進むためには、政府、企業、市民社会が協力して取り組む必要がある。特に「女性家族部の廃止」といった急進的な政策の変化は女性の人権に与える影響が大きいため、慎重に検討し、女性の声を反映した政策立案が求められる。
憲法裁判所は2019年4月に堕胎罪の条項に対して「憲法不合致」判決を下し、国会に対し2020年12月31日までに法改正を行う権限を与えた。しかし、第21代国会は関連法案の整備を行わず、第22代国会では法案の発議すらされていない。
このため、専門家は今からでも国会が女性の人権保護のために堕胎罪に関する立法作業を急ぐべきだと主張している。ハンリム大学社会学科のシン・ギョンア教授は「堕胎罪に関する法律は当然制定されるべきなのに、ずっと先送りされている。これは女性だけでなく男性にも関係する問題であり、速やかに立法する必要がある」と述べた。
最近、「進歩党」のチョン・ヘギョン議員が発議した「不同意強姦罪」に関する社会的議論も必要だとの意見が出ている。
シン教授は「韓国社会では不同意強姦罪に関する議論が十分に行われてこなかった。2018年当時、ナ・ギョンウォン(当時の自由韓国党=現「国民の力」議員)が代表発議した法案だが、その後7年間にわたり十分な議論がなされなかった」と指摘する。
「不同意強姦罪では暴力や強制力の行使の有無が重要な判断基準となる。争点となる『同意』と『不同意』をどのように区別するのかが複雑な問題であり、今からでも社会的に議論し、理解を深める必要がある」と述べた。
女性役員の割合を現在よりも増やすべきだという点については、専門家の間でも意見の相違はなかった。特に、尹錫悦政権の女性家族部廃止公約が企業に対して否定的なシグナルを送ったとの指摘がある。
シン教授は「ガラスの天井を打破し、女性役員の比率を増やすことは、企業経営の合理化にも非常に役立つということが世界的にすでに証明されている」と述べ、「役員層の多様性を確保する観点からも、女性役員の割合をさらに増やす努力をすべきだ」と強調した。
韓国女性政策研究院のキム・ナンジュ博士は「イギリスの週刊誌『エコノミスト』が3月5日(現地時間)に発表した『ガラスの天井指数(The Glass-Ceiling Index)』で、韓国は調査対象29カ国中28位だった。韓国は2024年まで(2023年基準の調査で)12年連続で最下位を記録している」と指摘する。「韓国の低順位の主因は、男女間の賃金格差、女性管理職の割合、女性役員の割合、経済活動参加率にある」と述べた。
また、民間企業にも「性別勤労公示制度」の拡大が必要であるという意見も出ている。
韓国外国語大学ミネルバ教養大学のキム・イェリム兼任教授は「公的部門だけでなく、民間企業にも男女間賃金格差の公示制度を拡大し、賃金差別を減らすべきだ」と指摘する。さらに、「特に中小企業では、女性のキャリア断絶を防ぐために育児休暇の拡充や保育支援政策を強化する必要がある」と説明した。
女性の人権政策に対する共感を幼少期から育むことで、成長後もジェンダー平等文化の拡大に向けた連帯意識を持つことができるという意見もあった。嶺南(ヨンナム)大学社会学科のホ・チャンドク教授は「小学校低学年からジェンダー平等教育を実施することで、性差別的な表現や行動を防ぐことができる」と述べた。
(記事提供=時事ジャーナル)
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