【前回】日本がまだ知らない美女ゴルファー、アン・シネの本当の素顔
今季から日本女子プロゴルフツアーに出場しているアン・シネ。8月15時点での成績を振り返ると、こうなる。
・「サロンパスカップ」41位タイ
・「ほけんの窓口レディース」予選落ち
・「アース・モンダミンカップ」16位タイ
・「ニッポンハムレディスクラシック」13位タイ
・「サマンサタバサ ガールズコレクション」15位タイ
・「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」予選落ち
そのいで立ちが必ずニュースになる“ミニスカ旋風”の話題性では文句のつけようがないが、優勝どころかトップ10入りできた試合も一度もない。2度も予選落ちしているだけに悔しさを隠し切れないのではないかと思いきや、「これまでを自己採点すると10点満点中7点」という。
そのワケを聞くと、こんな答えが返ってきた。
「7点というのは意外に思われるかもしれませんが、正直、自分で考えていたよりもよくやっていると思います。というのも、今季は出場できる試合数も限られていますし、韓国と日本を行き来するために生じる体力的な厳しさを考えると、私が私自身に大きく期待していなかったんです」
たしかに今季開幕前にアン・シネが韓国メディアに語っていた抱負でも、「少ない試合数でも賞金を十分に確保して、次のシーズンのシード戦を回避するのが目標です」と控えめだった。
「フル出場資格を得ることができなかったから、ちょっと恥ずかしい」と語っていたほどで、4月の韓国ツアーでのプレー写真を見ても、どこかソワソワした印象は拭えなかった。
「ええ。日本に来る前まではそんな気持ちでした。極論すると、“海外でプレーしたという思い出を作りながら、楽しくゴルフができればいいな”くらいの目標設定でしたが、この数カ月を振り返ると初期の目標設定以上のことがたくさんありました。それが7点の理由です。3点足りないのは、その過程で成績への欲も出てきたのですが、なかなかその欲を満たせていないようなので減点です。それで自己採点すると、7点となります(笑)」
つまり、アン・シネ自身が予想していた以上のことを日本で得られているというわけだが、ならば来日前には日本にどんなイメージを抱いていたのだろうか。
ちょうど去年の今頃、アン・シネの単独インタビューを行ったことがある。
当時はまだ日本ツアー参戦も定かではなく、その際には「日本ではゴルフがとても人気があるスポーツだと聞いています」とありきたりな答えだった。
そこでより具体的に、“抱いていた日本のイメージ”について問うてみると、アン・シネはこう言うのだった。
「正直に告白すると、具体的なイメージがあったわけではなく、ただ白いキャンバスのように白紙でした。さほど事前知識があったわけではないですし、わざと周囲に聞き回るようなこともしませんでした。なぜかって? 例えばプレゼントだってそうじゃないですか。中身がわかってリボンを解き箱を開けるよりも、何もわからず開いたほうかワクワクするし驚きも大きい(笑)。そういう意味でいうと、私にとって日本は想像していた以上に、嬉しいビッグサプライズの連続なんです」
では、アン・シネにとって何がサプライズだったのか。
「例えばゴルフ環境です。韓国では国土が日本よりも狭いせいか、練習施設まで充実したゴルフ場は珍しいんですよ。日本はどの試合会場に行っても、ただ18ホールあるだけでなく、ドライビングレンジがあったり、バンカー練習場があったり、アプローチを練習できる環境も整っている。これには本当に驚きました」
日本のゴルフ環境の素晴らしさを絶賛するのはアン・シネだけではない。
イ・ボミ、キム・ハヌル、申ジエなど日本でプレーする多くの韓国人選手が口にすることで、それが「彼女たちが日本から離れられない理由」のひとつでもある。
「それにもうひとつ驚いたのが、ギャラリーの多さとマナーの良さです。どの試合会場に行ってもたくさんのギャラリーであふれ、みなさん、本当にマナーが良い。会場全体笑顔があふれ、プレーする私も自然と嬉しくなる。ゴルフはスコアを競い合うコンペティション(競争)である以上、ギスギスした緊張感も漂うものですが、そういった殺伐した雰囲気はなく、プレーヤーもギャラリーもゴルフというスポーツを健全に楽しんでいる雰囲気が良いですよね。私自身も日本では心からゴルフを楽しめています」
アン・シネと日本のギャラリーたちのふれあいは、今や恒例化しつつある。
長蛇の列ができてもサインに応じる姿は、“神対応”とさえ呼ばれるほどだ。そうしたファン対応は韓国でも変わらないが、日本では異国ということもあって余計に“特別なもの”に感じるのだという。
興味深かったのは、アン・シネがゴルフ環境やギャラリーだけではなく、日本の大会運営にも称賛を惜しまなかったことだ。
「日本の大会運営はとてもきめ細かくオーガーナイズされていてプレーしやすい。関係者たちも親切で、私たちプレーヤーが競技にだけ集中できるように親身になって手伝ってくれます」と大絶賛した。
そのなかでもアン・シネが最も感銘を受けたのは、ボランティアスタッフの多さだという。キャリングボードを掲げたり、ギャラリーを先導するボランティア・スタッフの姿には感動すら覚えたらしい。
「日本では若者だけではなく、ご年配の方々や女性もボランティアスタッフとして大会運営に携わってくださっているじゃないですか。その表情がみな、生き生きしていて、とても眩しく映りますし、そういう方々に支えられて私たちはプレーできているんだなと思うと、気が引き締まります。
ギャラリー、大会関係者、ボランティアに、キャディとプレーヤー。ゴルフ場にいるすべての人々がゴルフというスポーツを心の底から楽しみ、何よりも愛している。それはまさに理想的なあり方だと思うんですね」
そんな日本のゴルフ文化に飛び込み、今やその注目を一身に浴びるようになったアン・シネ。無数のスポットライトを浴びることを、彼女はどう考え受け止めているのだろうか。(つづく)
(文=慎 武宏)
前へ
次へ