2017年、韓国では高齢者による問題が度々取り上げられた。
特に記憶に残るのは、1995年にユネスコ世界文化遺産に指定されたソウル市鍾路(チョンノ)区に位置する宗廟(チョンミョ)エリアが現在、高齢者たちの憩いの場として親しまれているという報道である。
韓国メディア『ソウル新聞』が現地取材したところによると、この宗廟エリアで、50代以上に見える女性たちが高齢男性に売春を持ちかけているという。
客に声をかける際、栄養ドリンク「バッカス」を差し出していることから、彼女たちは“バッカスおばさん”と呼ばれているが、最近は売春婦が高齢化し、“バッカスおばあさん”も珍しくないらしい。
20年以上、売春を続けているという75歳の女性は、こう証言していた。
「今は60代でも若いほう。80代も“バッカス”片手に、大勢繰り出してるよ」
彼女たちの性ビジネスは、宗廟周辺の商店に被害を及ぼしているそうだ。ある居酒屋の店主は、「バッカスおばあさんたちが、来店した高齢者たちを連れて行ってしまうから、商売の邪魔になっている」と嘆く。
この高齢者による性売買は、カナダのメディア『VICE』やシンガポールのチャンネル・ニュース・アジア(CNA)などが取り上げたこともあり、宗廟を訪れた外国人観光客にも認知されているという。
実際、前出の『ソウル新聞』がインタビューした外国人観光客も、この地で公然と売春が行われている事実を知っていると答えていた。
観光地のイメージダウンは避けられず、韓国ネット民も「外国でも放送されているなんて、恥ずかしい」「外国に発信されてしまった今、高齢売春は根絶しなければ」などと嘆いている。なかには「売春で観光客を集めよう」と皮肉るコメントもあった。
もっとも、高齢者による売春は今に始まったことではなく、1990年代から問題視されてきた。
2016年には“バッカスおばあさん”を主人公にした映画『バッカス・レディ』も公開されているほどだ。
しかし最近は、その数が急増している。韓国警察庁の発表によれば、2013年には全国で183件が摘発されたが、2016年は603件と3倍以上に膨れ上がっているのだ。
そこには、今年9月の時点で、人口のうち65歳以上が占める割合が14.02%に達し、「高齢社会」(高齢者人口の比率が14~21%)に突入したことも関係しているといわれているが、さらに深刻なのは、高齢者の貧困のほうだという。
何しろ韓国の65~74歳の相対的貧困率は42.7%、75歳以上に至っては60.2%に上っており、OECD加盟国中ワースト1位となっている。
ただ、“バッカスおばあさん”たちが売春でがっぽり稼いでいるかというと、そうでもないようだ。
2014年にイギリス『BBC』が彼女たちを取材した際は、性交渉までこぎ着けても2~3万ウォン(約2000~3000円)を受け取るにすぎないと報じていた。
また、ある高齢売春婦は「数万ウォン(数千円)を稼いでも、摘発されたら、その何倍もの罰金を払わないといけない」と明かしており、彼女たちがハイリスク・ローリターンな商売を行っていることがわかる。
こうした状況について、韓国老人相談センターのイ・ホソン所長は、「基礎生活受給費(生活保護)を受けられない高齢者たちは、(社会の)死角に隠れてしまっている」としながら、「一般的な売春婦たちを対象にした自立支援活動も、高齢者にとっては何の意味も持たない」と指摘している。
警察は、老人相談センターによる指導に力を入れているが、目の前の生活に困窮している彼女たちには効果が薄いようだ。
取り締まりと処罰を強めるべきだとの声も聞かれるが、より根本的な対策が実施されなければ、結局はいたちごっこになる可能性が高いだろう。宗廟が、世界遺産の威厳を取り戻す日は来るだろうか…。
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