いつまでも曖昧な“コウモリ”ではいられない…アメリカか中国か、韓国の「外交安保の座標」はどこに

2025年06月28日 国際 #時事ジャーナル
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「我々も我々なりに(外交安保の座標を)定めるのが望ましい。アメリカが“3時”の方向を期待し、中国が“9時”の方向を要求するなら、韓国は基本的に“1時半”の方向で対応する国であることを認識させるべきである。すでに日本・オーストラリア・インドは“3時”から“12時”の間でそれぞれ異なる方向を取っている。してはならないのは、“3時”と“9時”の間を行ったり来たりすることだ」

【注目】李在明大統領のイメージ戦略

李在明(イ・ジェミョン)大統領の「国益中心・実用外交」公約を設計した外交ブレーンであるウィ・ソンラク国家安保室長は、2020年に自ら出版した著書『韓国外交アップグレード提言』の中でこのように強調した。

アメリカ・中国・日本・ロシアなど主要周辺国との国際関係が複雑に絡み合う中で、韓国が独自の外交的座標を定められなければ、四方からの圧力だけを受けることになりかねないという指摘だ。

こうした主張は、韓国外交がこれまで確固たる方向性を持たず、その場しのぎでイベントに対応してきたという問題意識から出ている。代表的には「THAAD配備」や米中貿易戦争のように、主要国間で激しく対立する状況で積極的な対応をためらい、“ブレる”外交スタンスを国際社会に印象づけてしまった、ということだ。

では、現在の李在明大統領の「外交安保の座標」は、時計の何時を指しているのだろうか。

李在明大統領
(写真=国会写真記者団)李在明大統領

6月22日、李在明大統領がNATO(北大西洋条約機構)首脳会議への最終的な不参加を決定したことで、その座標があいまいになったとの指摘が出ている。NATO加盟32カ国という自由陣営の中核国家に対して、大統領就任初期から不明確なメッセージを発した形になったからだ。

ウィ・ソンラク国家安保室長が大統領の代わりに出席したものの、前政権では3年連続で大統領が出席していた外交的一貫性を考慮すると、加盟国の間に疑問が残る可能性もある。また、世界的に安保の重要性が増すなか、韓国の防衛産業セールス外交の好機を逃したとの惜しむ声もある。

こうした状況の中、イランとイスラエルの戦争によって国際秩序に「力の論理」が強まるほど、強国が自国の外交路線を押し付ける相反する圧力も一層激しくなるとみられる。目下、米韓関係だけでも、関税や防衛費分担といった積み残された課題についての協議や請求が控えている。

一方で、アメリカによるイラン攻撃に影響を受けた北朝鮮・中国・ロシアの結束が強まり、権威主義陣営による圧迫も本格化するとの見通しもある。

李在明大統領のNATO欠席で止まった「外交の一貫性」

6月17日(現地時間)、李大統領がカナダ・カルガリーで開催されたG7(主要7カ国)首脳会議のスケジュールをこなし、帰国した段階では、NATO首脳会議への出席が既定路線と見られていた。

前政権が3年連続で参加してきた会議を欠席すれば、外交的一貫性の観点から国際社会に誤ったメッセージを与える可能性があるからだ。しかも李在明大統領は、G7会議にて日本の石破茂首相をはじめとする9カ国の首脳と会談をこなし、実用外交の初舞台を無難に務めたことで、内外に好印象を与えるチャンスにもなっていた。

特に、G7でドナルド・トランプ米大統領が早期帰国したため、米韓首脳会談が流れたこともあり、NATO首脳会議への出席が外交的に正当化されるという声は大きかった。関税や防衛費など山積する米韓間の外交懸案を動かすためには、トランプ大統領と初対面の会談を行うことが急務だったためだ。大統領室もこうした理由で、NATO首脳会議への出席を積極的に検討していたとされる。

しかし、アメリカがイランの核施設に対する先制攻撃を行い、中東情勢の不確実性が増すと、状況は急変した。

大統領室は「国内外の複数の懸案と中東情勢の不確実性」を理由に不参加を決めたが、トランプ大統領との会談が成果を上げられるか不透明になった点も判断に大きく影響したとみられている。トランプ大統領自身のNATO出席が不確実だったうえ、出席しても主要議題の中で通商問題の比重が下がれば、実利は乏しいと見なしたのだ。

李在明大統領
(写真=大統領室通信写真記者団)李在明大統領

大統領室の不参加決定をめぐって、政界では意見が分かれた。

野党「国民の力」の外交統一委員らは、「アメリカによるイラン核施設への精密攻撃とそれに伴う中東地域の緊張の高まり、そして李在明大統領のNATO首脳会議不参加決定によって、韓国は重大な外交的試練に直面している」と述べ、「今回の不参加によって、韓国がアメリカ同盟国の中で最も弱い輪と見なされ、むしろ中国やロシアからの強圧外交の対象になるのでは」と懸念を示した。

一方、与党「共に民主党」は「李在明大統領のNATO不参加は、内乱による混乱も収束しないなかで中東戦争まで重なった複合危機を考慮した苦悩の末の決定だった」とし、「韓米同盟の重要性や関税交渉など両国間の懸案の緊急性は理解しているが、NATOに行ったからといってすべてが解決するわけではないのでは」と反論した。

特に韓国・日本・オーストラリア・ニュージーランドという、NATOに招待されたインド太平洋4カ国(IP4)のうち、ニュージーランドの首脳のみが出席したという点から、「特別問題視することではない」との見方も多い。

日本の石破茂首相とオーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相も、李在明大統領と同様に中東情勢の不透明さを考慮して閣僚を代理出席させた。さらに、トランプ大統領がIP4との特別会合に出席しないことを最終決定したため、仮に李大統領が出席していても、トランプ大統領と会談するのは難しかったという見方も現実的だ。

「戦略的曖昧さ」の韓国…迫る“選択の時”

ただし、これらIP4諸国は従来から韓国に比べて明確な外交方向性を持っていたという点で、単純に同列で比較するのは難しいという指摘が多い。

例えば日本は、早くから中国をけん制する日米外交戦略として「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を強く支持し、多国間安保協力体であるクアッド(QUAD)を結成するなど、新冷戦以後の明確な路線を構築してきたとの評価が支配的だ。

経済面では、中国への輸出依存を徐々に減らしつつ、アメリカとの関税問題では実利を優先し、さまざまな交渉カードを提示している。日本の外交座標は“1時半”方向、つまりアメリカ寄りの立場に位置していると言える。

オーストラリアも2021年に米英との三国安保パートナーシップ「AUKUS」を結成し、インド太平洋地域における中国の影響力拡大をけん制する基本的座標を確立している。今年4月には中国がアメリカとの関税戦争への共同対応を求めたが、オーストラリアは対中経済依存の縮小という名分を掲げ、一定の距離を置く姿勢を示した。

これに対して韓国は、政権ごとに外交路線が頻繁に変わってきたため、戦略的な曖昧さがより大きいという評価を受けている。

特に米ホワイトハウスは、李在明大統領当選直後、「米韓同盟は鉄壁のように維持される」としながらも、「中国の干渉を懸念する」と述べた。これは李在明政権が実用外交を掲げる中で提示してきた「安米経中(安保はアメリカ、経済は中国)」や「両手外交」がやや不明瞭であることを間接的に指摘した発言と解釈されている。

こうした点は、ウィ・ソンラク国家安保室長が長年懸念を表明してきた部分でもある。

彼は著書で「韓国には、周辺主要国間の対立構図の中で、韓国が進むべき道を積極的に模索しようという意識が乏しい。むしろそれを避けて現状に安住しようとする傾向が強い」とし、「米中間で困難が生じると、曖昧にふるまった。選択が避けられなくなると、その時その時の圧力の度合いに応じて便宜的に対応することが多かった」と記している。

NATO首脳会議に大統領の代理で出席したウィ・ソンラク室長自身が、その「場当たり的対応」と「戦略的曖昧さ」を最も警戒していたわけだ。

韓国の外交安保の時計において、「避けられない選択の時」は遠くないと見られる。

6月25日(現地時間)、NATO各国がトランプ大統領の圧力により、2035年までに防衛費をGDPの5%水準にまで引き上げることで合意したことで、次なる要求の矛先がアジアに向けられる可能性が高まっている。今年の韓国の防衛費はGDP比2.32%(約61兆ウォン=約6兆1000億円)水準であり、NATO並みの5%を要求された場合、年間約130兆ウォン(約13兆円)規模の国防支出が必要となる。

ジョセフ・ユン駐韓米大使代行は6月24日のあるセミナーで、防衛費分担特別協定(SMA)に関連して「建設費、人件費、軍需費の3部門から成っているが、他の費用もどのように分担するか議論する必要がある」と述べた。「他の費用」が何を意味するかは明らかにされなかったが、アメリカの戦略兵器展開費用なども韓国が分担する可能性があるという観測が出ている。

また中国・ロシアなど権威主義陣営の圧力も、一層激しくなるとの見方がある。アメリカによるイラン核施設への空爆は、アメリカがいつでも地域紛争に介入しうるという警告のメッセージとも解釈されており、中国・ロシア・北朝鮮にとっては脅威として受け止められるだろう。

そしてその余波は、地政学的要衝である朝鮮半島にも直接的に及ぶ可能性がある。

実際、習近平中国国家主席は7月に開催されるBRICS首脳会議に、2009年の発足以来、初めて欠席を決定した。これは最近、あからさまに親米路線を取っているインドなどに対する牽制メッセージだという見方も出ている。

中国・北朝鮮という微妙な関係国と同時に向き合わなければならない李在明政権にとって、外交的座標の設定にかかる負担はますます大きくなっている。

イスラエル・ライヒマン大学の中国・中東専門家ゲダリヤ・アフターマンは、ワシントン・ポストに、「トランプ大統領が実際に武力を用いてイランに介入したことは、アメリカが中国の台湾侵攻に対しても軍事的に対応する可能性がある、という懸念を植え付けたのではないか」と述べた。

(記事提供=時事ジャーナル)

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