李在明「中道攻略」vs 尹錫悦「弾劾回避」…韓国政治の運命を分ける“中道層”の選択は?

2025年02月22日 政治 #時事ジャーナル
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「もともと私たちは進歩政党ではない」

【注目】韓国の“次期大統領候補”は李在明代表が1位

2月19日、韓国最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、国会で記者団に対し、このように述べた。

彼は「進歩は正義党や民主労働党のような勢力が担っている」とし、「共に民主党」の立ち位置を「中道保守」と位置付けた。

前日の2月18日にも、「共に民主党」派のYouTubeチャンネル「セナル」とのインタビューで、「我々は右にシフトしたわけではない。もともとの位置にいる」と述べ、「我々は中道保守程度のポジションであり、進歩陣営は新たに構築されるべきだ」と語った。

李在明代表
(写真=時事ジャーナル)李在明代表

「共に民主党」はもともと保守だったのだろうか。

李代表の発言を受け、政治界では思いがけない「イデオロギー論争」が巻き起こっている。左派を代表する政党と見なされてきた「共に民主党」のアイデンティティが、実は右派に近かったという李代表の主張に、与党だけでなく野党内でも戸惑いが広がっている。

李代表は、金大中(キム・デジュン)元大統領政権時代から「共に民主党」のアイデンティティは中道保守だったと強調している。しかし、政治界では次期大統領選挙のキャスティング・ボートを握る中道層を狙った「戦略的な急転換」と見る分析が優勢だ。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の「一枚岩体制」に反対する保守層を取り込もうとする試みとする見方もあり、その効果をめぐっては、政治界で賛否が分かれている。

中道層の10人中7人が「尹大統領の弾劾に賛成」

政治専門家たちは、保守と進歩の「コンクリート支持層」はそれぞれ30%前後と見ている。これらの層は与野党の対立が激化するほど、より迅速かつ強力に結束する傾向がある。

実際、「12・3非常戒厳」後の弾劾局面においても、与野党の支持率は互角の状況が続いている。

EMBRAINパブリック、Kstatリサーチ、コリアリサーチ、韓国リサーチが2月17~19日までの3日間、全国の満18歳以上の男女1000人を対象に行った2月第3週の全国指標調査(NBS)の結果、政党支持率は与党「国民の力」が37%、「共に民主党」が34%で、誤差範囲内の接戦となった(NBS調査は携帯電話の仮想番号100%を利用した電話面接で行われ、標本誤差は95%信頼水準で±3.1%ポイント)。

結局のところ、左派と右派の間に位置する30%前後の無党派層と中道層の票をどの政党、どの候補がより多く確保できるかによって、選挙の勝敗が決まることになる。実際、接戦が繰り広げられた選挙では、常に「中道戦争」で勝利した候補が大統領の座を掴んできた。

尹錫悦大統領弾劾を求める市民たち
(写真=時事ジャーナル)2月15日、ソウル・光化門(クァンファムン)で尹大統領の罷免を求める市民たち

2002年の大統領選では、当初は「アンダードッグ(負け犬)」とされていた盧武鉉(ノ・ムヒョン)候補(新千年民主党)が、選挙終盤に中道保守志向のチョン・モンジュン候補との一本化に成功し、イ・フェチャン候補(ハンナラ党)を僅差で破って大統領に当選した。

2012年の大統領選では、「経済民主化」を掲げた朴槿恵(パク・クネ)候補(セヌリ党)が文在寅(ムン・ジェイン)候補(民主統合党)を破った。前回の大統領選では、キム・ハンギル元「共に民主党」代表を迎え入れ、アン・チョルス候補との連携を発表した尹錫悦候補が当選した。

一方、同じ進歩陣営のシム・サンジョン候補(正義党)との連携を試みて失敗した李在明候補は、わずか0.73%ポイント差で敗北を喫した。

尹大統領の「弾劾列車」が終着点に向かう今、政治界が中道層の世論を注視し始めたのはこのためだ。もし、この春に早期大統領選挙が実施されることになれば、中道層がキャスティング・ボートを握るという見通しが出ている。

現在までに明らかになっている中道層の世論は、明らかに与党に不利な状況だ。

尹大統領が「不正選挙」の可能性を指摘し、「12・3非常戒厳」を実施したことや、憲法裁判所の偏向性を批判する尹大統領弁護団の態度に対して、中道層の反感が少なくないという世論調査結果が発表された。

2月第3週のNBS調査で、中道層に「尹大統領の弾劾審判への対応」について質問したところ、「否定的評価」が67%で、「肯定的評価」(27%)を2倍以上上回った。また、「憲法裁判所の弾劾審判過程の信頼度」に関する調査では、「信頼する」と答えた回答者が65%で、「信頼しない」(32%)を大きく上回った。

尹大統領および与党は、中道層からの信頼を大きく失っていることが明らかになっている。中道層に「尹錫悦大統領の弾劾に対する意見」を尋ねたところ、「罷免すべきだ」という回答が67%で、「棄却すべきだ」(27%)という意見を圧倒していた。

また、「次期大統領選の構図」に関する調査では、中道層の55%が「政権交代のために野党候補が当選すべきだ」と回答し、「政権再創出のために与党候補が当選すべきだ」(29%)を大きく上回った。

「非好感度」よりも「中道攻略」を選んだ李在明

最近の動向から見ると、「共に民主党」は有利な立場を占めているといえる。

中道層における「反戒厳・反尹錫悦」の世論が根強い状況であれば、「共に民主党」は反射利益を期待できる。すでに有力な大統領候補である李代表を擁している以上、わざわざ「盤(政治情勢)」を揺るがす必要がない状況だ。

しかし、その「盤」を李代表が自ら大きく揺るがしている。

李在明代表
(写真=李在明代表Instagram)

李代表は実用主義を前面に打ち出し、これまでの「共に民主党」の路線とはやや異なる政策を打ち出し始めた。問題は、その過程で李代表が「右折」と「左折」を繰り返しているように見え、論争を呼んでいる点だ。

例えば、李代表は半導体研究開発(R&D)分野に「週52時間制の例外」を設ける方針を受け入れるような姿勢を見せた。しかし、労働界からの反発が起こると、最近、労働時間特例条項を除外した形で半導体法を処理する方針に転じた。

また、補正予算案の争点である生活回復支援金に関しても、「必要であれば特定項目に固執しない」と述べていたが、「共に民主党」は3日後に発表した補正予算案に1人当たり25万~35万ウォン(約2万6000円~3万6000円)の「生活回復消費クーポン」予算を盛り込んだ。

親・李在明派は、これを尹大統領とは対照的な李代表の「柔軟なリーダーシップ」と解釈している。イデオロギーに基づいて経済・外交政策のガイドラインを設定し、野党との協議を拒否した尹大統領とは異なり、李代表の「強み」を示す事例だと評価している。

首都圏の地域区を持つ親・李在明派のある議員は、「尹大統領がなぜ非常戒厳を行ったのか。結局は『自分の判断が絶対に正しく、絶対に変えない』という独善と傲慢の結果だ」とし、「李代表が『ぶれた』という批判もあるが、大きく揺れる経済と政治状況に合わせて柔軟に対応しているというのが正確な評価だ」と述べた。

「中央線越え」の批判も

一方で、政治界の一部からは李代表が「右折」を超えて「中央線を越えている」との批判も出ている。

李代表が実用主義を超えて、党のアイデンティティを「中道保守」と宣言したためだ。

保守の本流を自負する「国民の力」からは、「保守政策のコピーは魂のない『C級ニセモノ』」(クォン・ソンドン院内代表)、「全国民主労働組合総連盟(民労総)の過激派勢力の顔色をうかがっているだけで、誰が信じるだろうか」(クォン・ヨンセ非常対策委員長)といった激しい非難が噴出した。

さらに、野党内部でも「党のアイデンティティと路線変更は、党代表の一方的な宣言で決まるのではなく、十分な議論を通じて国民の共感を得なければならない」(キム・ブギョム前国務総理)、「党憲と綱領を何度読んでも、どの部分を『保守』と呼ぶべきかわからない」(イ・インヨン議員)という批判が相次いだ。

非・李在明派の元議員を中心とするグループ「初日会」も声明を発表し、「党代表が党内での民主的な議論や熟議のプロセスも経ずに、あっさりと共に民主党を中道保守政党と発言したのは驚きだ」とし、「中道層を獲得するために中道保守をイデオロギーとするのは、アイデンティティを変更することであり、党の非民主性と私党化現象を示している。党の伝統と歴史、規範を無視する無歴史性を意味する」と批判した。

これに対して、李代表側は「誤解だ」と反論。過去の金元大統領時代から「共に民主党」の路線は「中道保守」だったと主張している。

実際、金元大統領は1997年11月13日の金融実名制関連の放送局3社合同主催討論会で「我が党は中道・右派政党だ。自由市場経済を支持するため右派であり、庶民の利益を代弁するため中道だ」と述べ、「全世界の進歩政党が中道を標榜している。私が右傾化したのは当然のことだ」と語ったことがある。

尹錫悦大統領の弾劾に反対する市民たち
(写真=時事ジャーナル)2月15日、光化門で尹錫悦大統領の弾劾に反対する市民たち

しかし、政治界の一部では、李代表のこのような変化が「焦り」から来ているのではないかという見方もある。自らを取り巻く「司法リスク」への懸念が強まるなか、中道層で李代表を拒否する世論が少なくないという調査結果が出ているからだ。

2月第3週のNBS調査で、中道層に「李在明大統領候補への好感度」を尋ねたところ、「好感が持てない」(60%)が「好感が持てる」(36%)を大きく上回った。政権交代を望みながらも、「大統領・李在明」には否定的な中道層が少なくないという状況だ。

一方、前回の大統領選とは異なる「政治地形」が「李在明の保守化」を可能にしたという見方もある。

前回の大統領選では、シム・サンジョン候補の存在により、李代表が進歩陣営の「独占票」を期待できなかった。しかし、「正義党」の勢力が大幅に縮小した今、早期大統領選が実施されたとしても、進歩陣営内に李代表を脅かす「有力候補」は見当たらないという分析が出ている。

李代表の対抗馬と見られていたチョ・グク前「祖国革新党」代表は、実子の入試不正などの疑惑で実刑判決を受け、ソウル拘置所に収監された。これにより、既存支持層が離れる可能性が低くなり、李代表は新規支持層の獲得に専念できる状況となった。

与党主流派「尹大統領の再起」…「中道層を逃す」懸念も

「共に民主党」が「中道攻略」に力を注いでいる一方、与党「国民の力」の指導部は対照的な動きを見せている。

「12・3非常戒厳」に対しては謝罪したものの、「尹大統領の弾劾に反対する」という党論は崩していない。最近では憲法裁判所の裁判官の偏向性、さらに弾劾審判手続きの不公正さを連日非難する姿勢を強めている。

カン・スンギュ議員、チャン・ドンヒョク議員などは、強硬保守層が主導する「尹大統領弾劾反対集会」に参加した。

尹錫悦大統領
(写真=共同取材団)尹錫悦大統領

朴元大統領の弾劾局面とは異なり、保守支持層の結集が見られるなか、「早期大統領選挙での勝利を通じた政権維持」という「プランB」ではなく、「尹大統領の弾劾棄却による政権維持」という「プランA」に全力を注いでいる。

一部の与党関係者は「中道層を意識することは、大統領への裏切りだ」とまで断言している。

イ・チョルウ慶尚北道(キョンサンブクド)知事は2月19日の記者会見で、「国民の力が早期大統領選を口にする状況ではない」と述べた。

イ知事は「大統領弾劾審判は、戒厳行為に対する判断を超えて、大韓民国守護勢力と反国家勢力の衝突を象徴している状況で、国民の力が早期大統領選や中道拡張を口にしている場合ではない」と主張。また、「反国家勢力が自党の大統領を弾劾しようとする試みを見て、優柔不断に様子をうかがっていれば、国民の信頼を失い、政権も失い、さらに冷酷な積弊清算を受けることになる」と警告した。

一方で、与党内からは「国民の力が中道世論に逆らい、『尹錫悦守護』にだけ執着してはならない」という批判も出ている。

李代表が「中道保守」を掲げるなか、与党が左に転換するどころか、右に寄り続ければ「中道戦争」で大敗する可能性があるという懸念が広がっている。

「中道を失う」懸念と右派への偏り

ユ・スンミン元「国民の力」議員は、2月19日の『国民日報』とのインタビューで、「李代表が中道保守の領域まで侵入しているのに、国民の力はますます右端に押し込まれている。進歩から保守まで、0から10のスペクトラムがあるとすれば、今の国民の力は9~10の領域にひしめき合っている状況だ」と批判した。

また、進歩系評論家のチン・ジュングォン光云(クァンウン)大学特任教授は、2月18日に『時事ジャーナルTV』に出演し、「与党が中道・強硬支持層の両方を意識しているが、両者が同じになることはありえない。どちらか一方に立場を明確にするべきだ」と指摘。

さらに「尹大統領が『アウト(弾劾審判の認容)』された場合、(早期大統領選まで)2カ月しかない。その時になって(国民の力が党方針を)急変させようとすれば危険だ」と見解を示した。

2月17日に『時事ジャーナルTV』に出演したキム・ギョンユル前「国民の力」非常対策委員も、与党指導部が最近の支持率上昇に浮かれていると指摘し、「すべてを得たかのように街頭に繰り出すのは軽率だ」と警告した。

なお、記事で引用した世論調査の詳細は中央選挙世論調査審議委員会のホームページを参照した。

(記事提供=時事ジャーナル)

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