李在明(イ・ジェミョン)代表が率いる最大野党「共に民主党」が極度の緊張状態にある。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾審判を前に、突発的な変数が相次ぎ、李代表や議員たちの怒り、焦り、切実な思いが入り混じり、「マ・ウンヒョク憲法裁判官候補を任命せよ」というメッセージとなって噴出している。
尹大統領の迅速な罷免には、「確実な一手」が必要だという理由からだ。
「8対0の全員一致で弾劾認容」という確信が、予期せぬ変数によって党内外で揺らぎ始めると、憲法裁判所の審判が「保守寄り」に傾かないようにするためには、「進歩派」のマ候補という制御装置が必要だという主張が出てきた。
「共に民主党」が「8人制による迅速な結論」から「9人制の確立」へと世論戦のフレームを転換しようとしているのも、この文脈で解釈される。
ついには、マ候補を任命しないチェ・サンモク大統領権限代行に対する「弾劾」カードまで切ったが、党内での逆風を懸念する声も少なくない。
尹大統領の弾劾審判の宣告が迫っているとのシグナルが捉えられるなか、政界を揺るがす2つの事件が発生した。①裁判所による尹大統領の「拘束取り消し」決定、②野党の連続弾劾に対する憲法裁判所の「連続棄却」だ。
両方の結果とも、法理的には尹大統領の弾劾審判とは無関係だというのが政界・法曹界の一般的な見解だが、汝矣島(ヨイド、韓国の政治の中心地)では新たな火種が生じた。そして、その政局の中心にマ候補の任命問題が浮上した。
「共に民主党」は、マ候補を憲法裁判官に任命しなかったチェ権限代行の行為が、国会権限の侵害であるという憲法裁判所の決定を根拠に掲げている。しかし、「大統領罷免」に前向きな姿勢を示していたマ候補を投入することで、弾劾審判の天秤を「認容」に傾けようとする意図があるとの分析も出ている。
最近、「共に民主党」は「全員一致の罷免」という楽観論を展開していたが、尹大統領の「釈放」に加え、憲法裁判所の宣告日程が予想より遅れていることで、党内に当惑した雰囲気が広がった。
これを受け、パク・チャンデ院内代表をはじめとする院内指導部は、チェ権限代行に対し、マ候補の任命を促す姿勢を強めた。法曹出身のキム・ヨンミン院内政策首席副代表は3月12日、YTNラジオ『シン・ユルのニュース正面突破』に出演し、「今でも8人の裁判官全員が『認容』の意志を固めていると考えている」としつつも、「(マ候補が)審判に投入されれば、より完全かつ安全に9人による認容が可能になる」と主張した。
マ候補の任命の必要性を強調するもう一つの主体は、ウ・ウォンシク国会議長だ。ウ議長は3月12日、予定になかった緊急記者会見を開き、チェ権限代行にマ候補の任命を求めた。これをめぐり、政界では憲法裁判所内部の状況を意識した動きではないかとの分析が出ている。
ウ議長は、チェ権限代行のマ候補任命保留は、憲法裁判所の決定への不服だと指摘した。また、裁判官1人が不足した状態で、尹大統領の弾劾認容・棄却・却下の決定が下された場合、各勢力の一方が強く反発することになるという立場を示した。
「共に民主党」が打ち出した「マ・ウンヒョク世論戦」に対し、与党「国民の力」は即座に反発した。
クォン・ソンドン院内代表は、ウ議長に対し、憲法裁判所の決定文には任命を強制する内容はないとし、「マ候補を任命せよという主張は一種の強要であり、職権乱用だ」と反論した。尹大統領の釈放前までは、李代表の公職選挙法違反に関する控訴審判決(3月26日)後に弾劾審判の宣告が出るべきだという立場をとっていた「国民の力」も、マ候補の任命問題という新たな変数に直面し、計算を見直している様子だ。
野党は一歩後退…街頭闘争に総力戦
「共に民主党」の連続弾劾が、憲法裁判所の「連続棄却」につながっている点も混乱を招いている。
憲法裁判所は3月13日、チェ・ジェヘ監査院長、イ・チャンス地検長を含むソウル中央地検幹部3人に対する弾劾をすべて「全員一致」で棄却した。
「共に民主党」は尹錫悦政権発足後、約3年間で弾劾訴追案を29件提出し、そのうち13件を通過させた。しかし、結論が出た8件が次々と棄却されたことで、「共に民主党」の弾劾乱発に対する反発が強まるとの見方が出ている。
もちろん、これまでの棄却決定は、尹大統領の弾劾審判とは関係ない。しかし政界の一部では、憲法裁判所が法理的・政治的判断の両方を反映する可能性があるため、チェ権限代行やシム・ウジョン検察総長の弾劾といった強硬策は、「共に民主党」にとって不利に働くとの見解もある。
結局のところ、30件目、31件目の弾劾カードを一時的に棚上げした「共に民主党」が選んだのは、街頭闘争だった。尹大統領の釈放を黙認したシム検察総長に対する弾劾圧力を中断し、野党に有利な「味方」を確保して世論を覆そうとする動きに出たのだ。
パク院内代表をはじめとする「共に民主党」議員約70人が3月13日、チョン・デヨプ法院行政処長の「(尹大統領の拘束取り消し決定について)検察が即時抗告で上級審の判断を受けるべきだ」という発言を根拠に、大検察庁に押しかけて抗議デモを行ったのも、この流れの一環と解釈されている。
ただし、『時事ジャーナル』の取材を総合すると、「共に民主党」はマ候補の任命を強行するために「チェ・サンモク弾劾」シナリオについても依然として可能性を残している。特に、チェ権限代行に対する弾劾は、シム総長よりもより重大な案件という雰囲気が強い。
党内では、チェ権限代行の弾劾の必要性については概ね共感があるものの、「弾劾案の発議時期」が鍵を握るとの声が多い。
パク院内代表は3月12日、国会で『時事ジャーナル』の取材に対し、「2人(チェ権限代行とシム検察総長)に対する弾劾案を発議しない可能性はあるのか」との質問に、「みんな(弾劾案を発議すべきだという)考えは同じだが、問題は時期だけだ」と線を引いた。
彼は「弾劾案の発議に反対する人はいない。ただ、いつ発議するかというタイミングについて議論がある」と述べ、「党は引き続き進行中の議員総会で、その時期について協議を進めている。特に今週末(3月15日)の光化門(クァンファムン)集会が、我々の議員や国民の意思を集約するうえで最も重要な日になるだろう」と強調した。
匿名を希望したある「共に民主党」議員も、最近の議員総会を終えた後、『時事ジャーナル』の取材に対し、「チェ権限代行がマ・ウンヒョク候補を任命しないのであれば、次は序列上2番目のイ・ジュホ教育部長官にマ候補を任命する意志があるかを確認する段階に入る」と述べた。
また、「チェ権限代行が弾劾されたとしても、これまで彼が示した行政手腕は、『経済通』という評価にふさわしくないほど何の変化も生み出しておらず、国政運営に混乱をもたらすことはない」と強硬な立場を示した。
はたして、「マ・ウンヒョク任命総力戦」の中で、「チェ・サンモク弾劾」のカードは「共に民主党」にとって有益なのか。
これまで弾劾案を「最終手段」ではなく「第1の手段」として活用してきた「共に民主党」内でも、この問いに対して慎重論が出ている。特に、追加弾劾案の発議を議論している院内指導部が、政治情勢をより多角的に分析し、戦略的な判断を下すべきだとの批判が相次いでいる。
「共に民主党」のある核心関係者は、「(パク院内代表は)実際には(チェ権限代行・シム総長の弾劾を)推進するつもりだ。党内で共感を得ようと努力はしているが、(弾劾推進を)やめようとはしておらず、考えを変える意志もまったくないようだ」と指摘した。
さらに、「(追加弾劾案の発議は)党支持層に『我々は今戦っている』というアピールをする意味はあるかもしれないが、それがはたして党の目標である(尹大統領の)憲法裁判所での迅速な決定と弾劾審判の保守派への傾きを阻止する手段となり得るのか。私はそうは思わない」と強調した。
「共に民主党は中道保守」という李代表の論理と矛盾するとの指摘もある。
李代表が早期大統領選挙を見据えて進めている「右寄り」の政策に対しても、すでに迷走しているとの批判が出ているなかで、強硬策を押し通せば、中道層が「共に民主党」を見放す可能性があるという懸念が出ている。
現時点でチェ権限代行とシム総長に対する弾劾を強行するのは、実質的には強硬支持層を意識した結果にすぎず、これは「国民の力」が街頭闘争で強硬保守層の結集をさらに固定化させている姿勢と大差ないとの見方もある。
さらに、「共に民主党」がハン・ドクス国務総理を弾劾訴追した際、党支持率が下落した世論調査の結果を踏まえ、同様の事態が繰り返されれば党の信頼回復が難しくなるとの懸念も出ている。
明知(ミョンジ)大学のシン・ユル教授は、「中道・中道保守層が求めているのは単なる政策ではなく『国政の正常化』だ」とし、「共に民主党が再び弾劾を強行し、強硬策を進めれば(中道層も)それが李代表の中道保守路線と一致するのか疑問を抱くことになる」と指摘した。
そして「今のような状況で共に民主党に求められるのは、追加弾劾や集団デモなど陣営論理に乗るのではなく、冷静に支持層を落ち着かせるイメージを示すことだ」と助言した。
党内では、最大の目標である「尹大統領の迅速な罷免」に向けた過程で戦略が乱れたことを受け、院内指導部の責任を問う声が上がっている。
匿名を希望した「共に民主党」のある議員は、「党が尹大統領の釈放をまったく予測できなかった点、そして現在のように弾劾一辺倒で進んでいる点について、パク院内代表も責任を取って辞任すべきではないかと考えている」と述べた。
さらに、「(第21代国会で)李代表に対する逮捕同意案が可決された際、当時のパク・グァンオン院内代表が辞任した前例に照らし、今回も同様に検討する必要がある」と強く批判した。
特に、院内指導部が提起したシム総長の弾劾の必要性については、政治的判断が欠如しているとの批判も出ている。
朴槿恵(パク・クネ)元大統領の弾劾当時、「共に民主党」の院内代表を務めていたウ・サンホ元議員は3月12日、CBSラジオ『キム・ヒョンジョンのニュースショー』に出演し、「シム総長が悪いことをしたのは認める。私も憤りを感じる。しかし、これは弾劾すべき案件なのか」と指摘した。
続けて、「弾劾するには、憲法違反または法律違反が必要だが、この人物は法的違反を犯したわけではなく、単に計算高く立ち回っただけだ」とし、「裁判官の判決結果に従って(即時抗告を)しなかっただけであり、これは違法でも違憲でもない。したがって、弾劾審判に持ち込めば棄却されるだろう。冷静に判断すべきだ」と述べた。そして、「我々が強硬策を取ったときに支持率が下落したではないか」とし、感情的な対応を慎むよう警告した。
与野党が尹大統領の弾劾審判を前に神経をとがらせるなか、マ・ウンヒョク憲法裁判官候補(61歳、司法研修院29期)に対する評価が分かれている。
憲法裁判所は、マ候補の任命が憲法上の義務であると判断したにもかかわらず、チェ権限代行がなぜ彼を任命しないのか、政界の関心が集まっている。
「共に民主党」が推薦したマ候補は、ソウル大学政治学科を卒業し、ソウル中央地裁、ソウル南部地裁、ソウル北部地裁などで部長判事を務めた。昨年12月、国会の人事聴聞会で自身の経歴を紹介した際、法曹界の進歩派研究会とされる「ウリ法研究会」や、裁判所の労働法関連研究会などに所属していたことを明らかにした。
それだけでなく、マ候補は、裁判官になる前、労働運動団体「仁川地域民主労働者連盟(仁民労連)」で労働基本権の保障に向けた活動を行っていたと述べた。
与党側では、マ候補が「ウリ法研究会」出身である点を挙げ、政治的偏向性を問題視している。
キム・ムンス雇用労働部長官は「よく知っている人物だが、彼はマルクス・レーニン主義者であり、仁民労連の中核指導部だった」とし、「その後、考えが変わったとは一度も言っていない。このような人物が憲法裁判官になるのは非常に危険であり、憲法裁判所全体が思想的に汚染されることになる。判決全体にも不信感と対立を生じさせる要因となる」と主張した。
(記事提供=時事ジャーナル)
■尹大統領の釈放後に行われた世論調査…与党「国民の力」がわずかに最大野党を上回る
前へ
次へ