村上春樹の『騎士団長殺し』が韓国で大ヒットしている。
8月3日に『聯合ニュース』などが報道したところによると、同作の韓国語版は発売から1カ月足らずで発行部数50万部を突破する見通しだという。
6月末に行われた先行予約の段階で既に30万部を突破し、ベストセラーとなっていたのだが、人気はまだまだ終わらなさそうだ。
売り上げのペースは、2009年に発売された『1Q84』の韓国語版を上回った。『1Q84』が2カ月で56万部、8カ月で100万部を突破したことを踏まえると、『騎士団長殺し』は年内にミリオンセラーになる可能性が高いと予測されている。
同作は、主に30代男性から熱烈な支持を得ているそうだ。2000年代初期に最も村上の作品を愛読していた20代が、年を重ねて30代になったことが大きい。
また、同作の主人公が30代半ばの男性ということもあり、「主人公に共感を覚える」という30代男性の読者が多いのだ。
こうして韓国からも絶大な人気を博している村上春樹。しかし、一般読者からの人気ぶりとは裏腹に、評論家の間では批判の声が多い。
今年5月にソウルで行われた国際文学フォーラムでは、韓国の文学評論家ユ・ジョンホ氏が次のような発言をした。
「村上春樹を到底許せない。彼はバカな大学生たちに大人気だ。日本では大江健三郎や柄谷行人なども彼の小説が文学ではないと批判していたけれど、村上春樹の読者が増えると、多くの読者から好感を得る作家は何かがあるのだろうと話している」
そしてそのフォーラムに参加していた小説家ヒョン・ギヨン氏も、メディアとのインタビューでこう話した。
「春樹の作品には社会の問題的現実より、現実逃避の幻想の中で阻害・倦怠・憂鬱を楽しむ人物が主に登場する。彼らは歴史と現実からの逃避を、現実からの解放だという。そういう文学にも意味はあるが、もっと重要なのは消費享楽文化に浸った文学ではなく、それを反省し、批判できる文学ではないだろうか」
韓国で村上春樹に対する批判の声が上がるのは、何も作品の内容だけではない。
村上春樹といえばいつも話題に上がるのが、“先印税”(契約金のようなもの)問題だ。
韓国国内の有名作家に支払われる先印税は最大5000万ウォン(約500万円)程度だが、村上春樹の前作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の場合、16億6000万ウォン(約1億6000万円)が支払われたと推測されている。
今回の『騎士団長殺し』も、20~30億ウォン(約2~3億円)というウワサだ。
その異常な現象に対し、「たかが日本人の書いた小説に金をつぎ込み、振り回されるのが理解できない」「韓国出版界は村上春樹のカモだ」という批判の声も高い。
村上春樹は韓国で唯一の、良くも悪くも大きな話題を振りまく日本人作家なのだろう。
『騎士団長殺し』は韓国でミリオンセラーになれるか。その行方に注目したい。
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