65歳以上の人口が約12.7%という高齢化社会を迎えた韓国。高齢者の比率は2020年に15.7%、2030年に24.3%、2050年に35.9%と予測されているほど、OECD(経済協力開発機構)加盟国のなかで最も急速に高齢化が進展している。
近い将来、日本に次ぐ“高齢者国家”になる可能性が高い。
そんな韓国では高齢者に関する社会問題も増えているのだが、最近特に話題になっているのが地下鉄の優先席(韓国では“老弱者席”という)の問題だろう。
そもそも韓国では、若者が高齢者に席を譲るのが常識で、もし譲らなかったら周りから冷たい目で見られてしまう。過去には席を譲らない若者が居合わせた乗客たちからあからさまに非難を浴びるほど、若者と高齢者の間でトラブルが多かった。
そうしたこともあり、今では地下鉄の優先席に若者が座る光景をめったに見かけなくなったが、最近は若者の代わりに65歳以上の高齢者同士のケンカが後を絶たないという。
ネットの掲示板やSNSでは「今、地下鉄の中だけど、優先席前で老人2人が年齢のことでケンカ中」「80代の方が、優先席に座っている70代の老人に対して『まだ髪も黒いくせに』と怒ってケンカ沙汰」など、高齢者同士のケンカの様子がリアルタイム中継されたり、目撃談が上がったりする。
ソウルメトロとソウル特別市都市鉄道公社の発表によると、2014年にソウル市内の地下鉄で発生した優先席トラブルは219件。
2011年に比べて2倍以上に増えたという。ネット上に寄せられた65歳以上からのクレームも2倍以上に増加しているが、高齢者のインターネット利用率が低いことを考えると、実際にはさらに多いはずだ。
60代が70代に、70代が80代に席を譲らなければならない雰囲気のなか、優先席を利用する妊婦とのトラブルも問題になっている。
「見た目だけではわかりづらい妊娠初期に優先席に座っていたら、高齢者から怒鳴られて言い争いになった」というのは、もはや珍しい話ではない。妊婦専用席が設置された2013年からはトラブルがだいぶ減ったようだが、相変わらず優先席をめぐって人々が神経を張りつめる現状だ。
こうした優先席問題の原因として挙げられるのは、やはり“老人の定義”ではないだろうか。
韓国では65歳になると“敬老優待”の資格が与えられ、高齢者カテゴリーに入るのだが、この65歳という年齢設定は、平均寿命が50代半ばだった1950年頃に決められたもの。
平均寿命が80歳を超える今の時代には、「65歳はまだまだ若い」という意見が多数を占めている。
福利厚生の一環として行っている“シニアパス”の存在も、優先席不足に大きく関係している。シニアパスは65歳から支給されるもので、いつでも無料で地下鉄を利用できる。
ただ、そのせいで特に用事がなくても地下鉄に乗って暇をつぶす人も多く、高齢者の地下鉄利用率は年々増えるばかりなのである。
ソウル市では今後増え続ける高齢者数に応じて、地下鉄の優先席を増やすことを検討中というが、急速に進む高齢化社会対策の第一歩ははたして優先席問題なのだろうか。
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