死者9人のソウル逆走事故、確証バイアスと予断が招く社会的混乱…冷静に現実的な話をするべきだ

2024年07月09日 社会 #事件・事故
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9人の命を奪った韓国・ソウルの高齢者逆走事故。

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7月1日21時27分頃、ソウルのあるホテルの駐車場から出てきた車が、一方通行の幹線道路を逆走し始めた。車は止まらず、数台の車に衝突したあと、歩道に突入して歩行者を次々とはねたのだった。

この事故で30代男性4人、40代男性1人、50代男性4人の計9人が死亡。警察は暴走車を運転していた男性(68)を現場で逮捕するも、事故による痛みを訴えたため同乗していた60代女性とともに病院に運ばれた。男性は事故の原因として「車の急発進」を主張している状況だ。

事故から1週間が経った現在、事故の原因を解決する過程で起こる論争が、集団恐怖、パニックなどの社会的負担を誘発する恐れがあると憂慮の声も上がっている。

大型事故であるほど科学的思考に基づく冷静な観点が必要だが、いわゆる専門家集団であるほど自身の信念に基づく思考が正しいという態度を取りやすい。専門家ということで知識と経験は多いだろうが、生半可な判断は科学的思考の機会を根本的に防いでしまう誤りに陥らせる。

自動車関連の記者には、あらゆる体験イベントの機会が与えられる。30度以上の急傾斜を横に縦に走ったり、時速200km以上の速度でサーキットを走行したりだ。

この現象だけ見れば恐ろしいことだろう。傾斜を登る時はドライバーの目が届かない死角地帯が存在するため、誰しもがヒヤッとする。周囲の物が乗車している車の後ろに後退するような現象を経験する超高速走行もまた恐ろしい。

このようなイベントを率いるインストラクターたちが、参加者たちが車に乗る前に欠かさずかける言葉がある。「車を信じてほしい」だ。

極限状況であればあるほど、車を信じて車の性能に自分を任せなければならない。そうでなければ本当の事故が発生するという教訓だ。

それは、今回の事故にも当てはまると言えよう。早合点して急発進を断定したようなアプローチは、ややもするとドライバーを集団パニックに陥れる恐れがある。自分の車を疑い始めれば、ほかの車もすべて疑うようになり、結果的に人生を豊かなものにするために生まれたはずの車が一転、恐怖の対象となってしまう。

ソウル逆走事故以前に起きた事例が良い例だ。

昨年11月、ソウル市内のある住宅街で、60代のドライバーが運転するEV(電気自動車)タクシーが塀にぶつかる事故が発生した。運転手は急発進事故を懸念し、普段から運転者の足元を録画するドライブレコーダーを設置していたという。

事故後、タクシードライバーは急発進を主張。警察は足元の物を含めた4つドライブレコーダーを回収し、映像を分析したのだった。

交通事故
写真はイメージ(写真AC)

結果、映像に映るタクシー運転手は路地を右折したあと、30mを走る間にアクセルの踏んだり離したりを6回も繰り返していた。7回目を踏んで以降は、衝突するまで踏み続けていた。

塀に衝突する直前までの約7.9秒間、119mを走る過程で、タクシー運転手は一度もブレーキペダルを踏んでいなかったのだ。

この事例は、今年2月に行われた国際連合欧州経済委員会(United Nations Economic Commission for Europe、NECE)主管の分科会議に参加した韓国交通安全公団の発表により公開されたが、事故過程があまりにも明確に分析されていたため示唆するところが大きい。

タクシードライバーも運転を業として生きてきたため、運転の専門家と言える。この事故当事者も「私がそうしたはずがない」という考えで急発進を主張したが、自身も認知できなかった明白な操作の誤りがあった。

このドライバーは加速ペダルをブレーキペダルだと確信し、事故の間、ずっと加速ペダルだけを踏んでおり、映像を確認するまでは「私がそうしたはずがない」と確言していた。専門家集団であるほど陥りやすい、確証バイアスだ。

事故の原因を明らかにする過程は、明らかに科学的で論理的でなければならないが、確証バイアスに捕らわれた予断が多いほど社会全体が同じ誤りに陥る恐れがある。恐怖を拡大再生産する一部ユーチューバーの行動は、無駄に社会を疲弊させている。

今回の逆走事故も一つひとつ情況が明らかになっているが、科学的根拠を土台に事故原因に近づく必要がある。

むしろ、より現実的な議論のテーマはペダルの誤操作防止対策だろう。

世界主要国家の間でも、意図しない加速の主要原因がペダルの誤操作だという共感が形成され、国際連合欧州経済委員会は「ペダル踏み間違い時加速抑制装置(ACPE)」に対するグローバル評価基準と法規定のための議論を繰り広げている。ACPEをかなり前から商用化している日本では、ペダルの誤操作による事故と死傷者数が直近10年間で半分に減ったことが分かっている。

生半可な予断で恐怖感を助長する行動よりも、むしろ手動変速機(マニュアル・トランスミッション、MT)を復活させようという議論の方が現実的かもしれない。

(記事提供=OSEN)

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