韓国では今年1月の初旬から、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の逮捕や起訴をめぐる対立が続いた。
その間、尹大統領や与党「国民の力」に対する支持が増加し、政党支持率が拮抗する傾向を見せた。この頃から、20~30代の男性が「弾劾反対」の世論に加わっているという報道が出始めた。
最大野党「共に民主党」の一部の関係者が彼らを侮辱するような発言をしたことで批判を受け、最終的に職を辞する事態にもなった。
実際のところ、韓国の20代男性の間では「弾劾反対」の世論が強いのだろうか。20代男性は「極右的」な考えを持っているのだろうか。
尹大統領による「12・3非常戒厳」は「親衛クーデター」だった。自身に批判的な野党だけでなく、与党内のハン・ドンフン代表(当時)までも「軍事的暴力」で排除しようとした試みだった。これは典型的な独裁者の発想だ。
「共に民主党」や李在明(イ・ジェミョン)代表に批判的な考えを持つことは自由だが、この親衛クーデターを擁護することは、韓国の自由民主主義の憲政秩序を否定することに等しい。
20代男性が実際にどう考えているのか、3つのデータをもとに整理した。3つのデータとは、①20代男性の弾劾賛否世論、②20代男性の政党支持傾向、③20代男性の主観的な理念傾向だ。
報道される世論調査の多くは通常、1000人を対象としている。この場合、20代・30代・40代といった年齢層ごとのデータは示されるが、「20代男性」「20代女性」「30代男性」「30代女性」と細分化されたデータは提示されない。サンプル数が少なすぎるためだ。
韓国ギャラップは毎月、最終週に「月間統合データ」を発表する。これは3~4週間分のデータを統合したもので、サンプル数が3000~4000人に増えるため、年齢・性別のクロスデータが提供される。このデータを基に、20代男性が主要な政治課題をどう捉えているのかを分析してみよう。
まず、20代男性は尹大統領の弾劾に賛成しているのか。
一部の報道では、20代男性が「弾劾反対」の世論を主導しているかのように報じられたが、これは事実ではない。20代男性のうち、「弾劾賛成」は53%、「反対」は35%だった。30代男性では、「弾劾賛成」が62%、「反対」が31%であり、弾劾賛成の割合が圧倒的に高かった。
20~30代の男性全体では、「弾劾賛成」のほうが大きく上回っている。一方、60~70代では「弾劾反対」が50%を超えている。
また、20代女性にも注目すべき点がある。「弾劾賛成」は81%に達し、30代女性も77%が弾劾に賛成している。すべての年齢・性別のデータを比較すると、20代女性の「弾劾賛成」率が最も高かった。
興味深いのは、20代男性と30代男性の「弾劾賛成」率が「全体世論」と最も近い点だ。全体の世論調査では、「弾劾賛成」が60%、「反対」が34%であり、この結果と最も一致するのが20代男性と30代男性だった。
次に、20代男性は「国民の力」支持層が多いのか。
これは事実だ。20代男性の政党支持率を見ると、「国民の力」が37%、「共に民主党」が18%だった。さらに注目すべき点は、「支持政党なし」の無党派層が33%と高いことだろう。
30代男性では、「国民の力」35%、「共に民主党」28%で、両党の支持率の差は縮まる。30代男性の無党派層は29%であり、男性のなかで無党派層が最も多いのは20代、次いで30代という結果になった。
そして、20代男性の主観的な理念傾向は「保守的」なのか。
データによると、20代男性の理念傾向は、「保守」40%、「中道」31%、「進歩(リベラル)」19%だった。保守の割合が最も高いが、中道層も一定数存在する。30代男性では、「保守」40%、「中道」32%、「進歩」21%であり、こちらも保守が最も多いが、中道の割合もそれなりに大きいことがわかる。
では、20~30代の女性はどうか。20代女性では、「保守」14%、「中道」31%、「進歩」39%で、進歩の割合が最も高かった。30代女性は「保守」25%、「中道」36%、「進歩」30%で、中道層の比率が最も高い。
保守・中道・進歩という「主観的な理念傾向」は何を意味するのか。理念傾向とは、多くの場合、「潜在的な政党支持率」を反映していると考えられる。
一般の国民が、イデオロギーについて体系的に学ぶ機会は少ない。では、彼らはどのような基準で理念傾向を判断しているのか。おそらく、既存の政党構造に対する間接的な表現として用いている可能性が高い。
「共に民主党」を支持する人は進歩、「国民の力」を支持する人は保守と答える傾向があり、中道は「支持政党なし」と類似した意味合いを持つと考えられる。
ここまでの内容を整理すると、20代男性は「弾劾に賛成する」集団だ。また、「国民の力」の支持率がやや高いものの、無党派層も相当数いる。
さらに20代男性は、保守的な傾向を持つが、ここでも無党派層が一定数存在する。要するに、20代男性は「弾劾に賛成する」中道保守の有権者層だとまとめることができる。
20代・30代の男性が与党に比較的好意的であることは事実だ。しかし彼らを「与党支持層」と断定するのは早計といえるだろう。というのも、2022年の大統領選挙では尹錫悦候補を支持したものの、2024年の総選挙では尹錫悦政権を審判する投票行動を取ったからだ。
2022年大統領選の地上波3社による出口調査では、20代男性のうち、尹錫悦候補に投票した割合は59%、李在明候補は36%だった。30代男性では、尹錫悦53%、李在明43%と、20代よりも差が縮まった。
しかし2024年の総選挙では、20代・30代の男性はともに尹錫悦政権の「審判」に投票した。
選挙区ごとの投票動向のデータはないが、地上波3社が出口調査を通じて「比例政党」の支持率を調査した。20代男性の与党系比例政党の支持率はわずか31.5%にとどまった。
一方で、「共に民主党」が26.6%、「祖国革新党」が17.9%、「改革新党」が16.7%となった。「共に民主党」と「祖国革新党」は選挙連合を組んでいたため、その合計は41.6%となり、「国民の力」の31.5%を大きく上回った。
30代男性ではさらに差が広がった。与党系比例政党の支持率は29.3%にとどまり、「共に民主党」28.8%、「祖国革新党」23.6%、「改革新党」9.5%という結果になった。30代男性の「共に民主党」+「祖国革新党」の合計は52.4%で、「国民の力」の29.3%を大きく引き離し、その差は23.1ポイントにもなった。
20代男性は、朴槿恵(パク・クネ)元大統領の弾劾後に実施された2017年の大統領選では、「国民の力」系の政党を「審判」した。2020年の総選挙では「共に民主党」の圧勝を後押しした。
2021年4月7日の補欠選挙と2022年の大統領選では、「国民の力」系の候補や尹錫悦候補をより支持した。しかし、2024年の総選挙では尹錫悦政権を「審判」した。
このことから、20~30代の男性は「弾劾に賛成する」「中道保守の傾向を持つ」「スイングボーター(浮動票層)」であるといえる。
(記事提供=時事ジャーナル)
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