すでに勝利を確信した李在明氏、大きく“左”へ…司法への圧力&他候補を嘲笑?保守陣営はバラバラ【韓国大統領選】

2025年05月24日 政治 #時事ジャーナル
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韓国大統領選も最終局面である9回ウラ。各種世論調査は「李在明(イ・ジェミョン)の勝利」を予告している。

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投票日まで残り10日余りという状況のなかで、情勢は一方に大きく傾きつつある。

実際、「共に民主党」の李在明候補の支持率は過半数を超える「高空飛行」状態であり、「国民の力」のキム・ムンス候補の支持率は「ボックス圏」に閉じ込められている様相だ。

「国民の力」が起死回生の切り札として意気込んでいた「反・李在明ビッグテント(大連合)」も、なかなか勢力を広げられず完成には至っていない。李在明候補は、3度目の挑戦にして、立法権と行政権の両方を手にするという、より大きな「大統領トロフィー」を目前に控えている。

そのためだろうか。「中道保守論」を掲げ、支持層の拡大に集中し、「裕福な者ほど慎重に」といった戦略を取っていた李在明候補が、最近変化したという声が出てきている。

最近の彼は、中道層へのアピールよりも、野性的な言葉で進歩的なメッセージを発信し始めている。積極的な財政投入など「進歩の色」が濃い政策路線を再び強調し、「共に民主党」は司法への全面的な圧力も強めている。

テレビ討論や現場遊説でも、キム・ムンス候補などに向けた荒々しい発言や態度が再び現れている。これに対し保守陣営はもちろん、一部の進歩陣営からも「中道層の離脱」を懸念する声が上がり始めた。

李在明候補
(写真=時事ジャーナル)李在明候補

政治において油断は禁物だ。「ゴルフと選挙では頭を上げたら負ける」という格言は、今この瞬間にも有効だ。韓国の大統領選において一日は、ただの一日ではない。あらゆる可能性が開かれている。ホームラン一発で、同点どころか逆転まで起こせるのが政治の世界だ。

そうしたなか、政界では「結局大統領は李在明」という流れを認めつつも、情勢を覆しかねない最後の変数を注視している。保守陣営は逆転のための切り札として、「キム・ムンスとイ・ジュンソクの候補一本化」を模索する様子を見せている。

はたして李在明は、最後の波を乗り越え、「星の瞬間」を掴むことができるだろうか。

「李在明大勢論」は、単なる政治的修辞ではない。最近発表される各種世論調査では、李在明候補が50%に迫る支持率で独走している一方で、キム・ムンス候補はなかなか反転の機会をつかめていない。

いくつかの世論調査では、李在明候補の支持率がわずかに下がり、キム・ムンスおよびイ・ジュンソク候補の支持率がわずかに上がる傾向も見られたが、大勢を揺るがすにはまだ力不足の状況だ。

むしろキム・ムンス候補の立場から見ると、気勢を削がれる展開となっている。最近、「国民の力」を離党した尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領が不正選挙をテーマにした映画を観覧するなど、キム・ムンス候補の支持層拡張にブレーキをかけているとの評価がある。

ホン・ジュンピョ前大邱市長やハン・ドクス前国務総理も、「保守ビッグテント」への完全合流はしていない。

差は縮まりつつあるが、大勢を覆すには至らず

EMBRAINパブリック、Kstatリサーチ、コリアリサーチ、韓国リサーチが5月19日から21日まで、18歳以上の男女1002人を対象に実施した全国指標調査(NBS)では、李在明候補が46%、キム・ムンス候補が32%、イ・ジュンソク候補が10%の支持率を得た。

他の世論調査でも同様の傾向が見られる。リアルメーターが『エネルギー経済新聞』の依頼で5月20~21日に全国18歳以上の有権者1012人を対象に実施した大統領候補支持率調査でも、李在明候補48.1%、キム・ムンス候補38.6%、イ・ジュンソク候補9.4%という結果となった。

こうした民意の流れにより、「共に民主党」のみならず政界全体で「結局大統領は李在明」ではなく、「確実に大統領は李在明」という見通しが広がっている。取材によれば、「共に民主党」内部では大統領選の勝利はもちろん、「歴代最多得票、最高得票率、最大差勝利」への期待も高まっているという。

左から李在明、キム・ムンス、イ・ジュンソク候補
(写真=時事ジャーナル、国会写真取材団)左から李在明、キム・ムンス、イ・ジュンソク候補

李在明候補が大きな失点をしなければ、相手の得点だけでは勝負をひっくり返すのは難しいとの診断が、「共に民主党」の選挙対策委員会が行った独自の世論分析を通じて出されたとされる。

首都圏選挙区のある「共に民主党」議員は「朴槿恵(パク・クネ)元大統領の得票率(51.55%)を超え、55%の得票率達成を目指すべきだというのが選対内部のムードだ」と語り、「国民も今や『尹錫悦の遺産』を清算したいと思っている。その時代精神が圧倒的な支持率につながると信じている」と話した。

ただし、「共に民主党」指導部は、早期の勝利ムードが世論に悪影響を与える恐れがあるとして、連日「楽観論警戒令」を出している。

「共に民主党」は選挙対策委員会全体に引き続き「楽観論警戒令」を出しているが、李在明候補は次第に本来の「野性」を取り戻しつつある。

その代表的な場面として、政界では最近のテレビ討論が挙げられている。5月18日に行われた大統領候補討論会で、キム・ムンス候補は半導体特別法における「週52時間制の例外」条項の必要性を主張した。

これに対して李在明候補は「キム候補は労働部長官として、3カ月の柔軟勤務制度を6カ月に延ばせば十分だと述べたではないか。それが政府の立場だった」と反論した。キム・ムンス候補が「そうだ」と答えると、李在明候補は「で、どうしろと?自分でそう言っておいて」と返した。

見る人によっては、相手を嘲笑するような言い方にも受け取れる場面だった。

李在明候補は、自身への攻撃に対しても、最近ではより積極的に反論している。自身の経済政策をめぐる、いわゆる「ホテル経済学」論争にも、釈明ではなく逆攻勢で対応した。

李在明候補は5月21日、仁川南東区の九月ロデオ広場での遊説において、「お金が回らなければ、それはお金ではない。たとえ10万ウォン(約1万円)でも、ある家から別の家へと何度か回れば、それが10回回れば100万ウォンになる。それが経済の活性化なのだ。それを説明したら、妙にねじ曲げて受け取られている」と主張。「経済とは循環だ」と語り、「理解できないなら愚か者、意図的に曲解しているなら悪人だ」と痛烈に反論した。

「李在明、再び左派に戻った姿」

勝敗がすでに決したという見通しが背景にあるのだろうか。一部では、李在明候補のこのような自信に満ちた態度が、傲慢に見えるのではないかという懸念混じりの分析も出ている。

李在明候補
(写真=時事ジャーナル)李在明候補

最近、李在明候補を「イデオロギーより実用主義者」と持ち上げていたチョン・ギュジェ元『韓国経済』主筆は、5月19日に『時事ジャーナル』とのインタビューで、「右へ舵を切っていた李在明が、再び左派の李在明に戻った姿だ」と語り、「広場で大衆の機嫌を取ろうとすれば、ポピュリズム的な世界観を打ち出すことになり、その後遺症が現れているようだ」と指摘した。

そして「こうなると“李在明に一票入れてみようか”と迷っていた保守・中道層の有権者が、冷ややかになるかもしれない」と分析した。

実際、李在明候補の支持率を詳細に見ると、かすかではあるが明確な警告サインが見て取れる。李在明候補の支持率が徐々に下落する一方で、保守系候補たちの支持率には緩やかな上昇傾向が見られている。

5月22日に発表されたリアルメーターの世論調査結果と、4日前に発表された直前調査を比較すると、李在明候補の支持率は2.1ポイント下落した。同期間にキム・ムンス候補は3.0ポイント、イ・ジュンソク候補は0.7ポイント支持率が上昇した。支持率の差は9.5ポイントにまで縮まった。

5月22日に発表されたNBS調査でも、李在明候補の支持率は前週比3ポイント下落し、キム・ムンス候補とイ・ジュンソク候補の支持率はそれぞれ5ポイント、3ポイント上昇している。

これについてリアルメーターは、「李在明候補は『コーヒーの原価120ウォン(約12円)』『ホテル経済論』などの発言にまつわる論争や、最初のテレビ討論でキム・ムンスおよびイ・ジュンソク候補から集中砲火を浴びたことにより、PK(釜山・慶尚南道)・TK(大邱・慶尚北道)・湖南(全羅道)地域や60代、自営業層からの支持離れが顕著となり、2週連続で下落傾向を示した」と診断した。

特に、李在明候補に対する中道層の離反も一部で感じられている。最近1カ月間のNBS調査によると、李在明候補に対する中道層の支持率は5月第1週が47%、第2週が50%、第3週が55%と増加していたが、第4週には再び50%に下がる傾向が見られた。

一方、同期間におけるキム・ムンス候補の中道層支持率は、第1週4%→第2週8%→第3週18%→第4週21%と、底から始まり徐々に上昇している。

政界の一部では、「李在明大勢論」が広がれば広がるほど、それに対する牽制心理も働く可能性があるとの分析が出ている。ニュートンの法則にあるように、「すべての作用には反作用がある」というわけだ。

李在明の独走体制を懸念する有権者が結集する可能性もあるという。特に、最高裁判事の増員や裁判に対する憲法訴願など、司法に向けた「共に民主党」の全面的な圧力が、「国民の力」側にとって反撃の好機になるという見方も少なくない。

政治評論家チャン・ソンチョル氏は「共に民主党が司法を圧迫すれば、『民主主義の原則が守られないのではないか』という懸念が出る可能性がある」とし、「そうなると“独裁フレーム”に陥るかもしれない」と指摘した。明知(ミョンジ)大学のシン・ユル教授も「共に民主党は中道層にアプローチしているが、司法を圧迫すれば逆風が吹くかもしれない」と述べた。

キム・ムンス候補はこの点を逆手に取り、力を入れて攻めている。キム・ムンス候補は李在明候補をヒトラーやスターリンなどの独裁者になぞらえ、「権力を集中させてはならない」という牽制心理に訴えている。

それでも、今回の大統領選の構図は依然として「政権審判論」が優勢だ。キム・ムンス候補の立場では、残された期間を考慮すると「決定的な一手」なしに大逆転を成し遂げるのは容易ではない。歴代の大統領選で、支持率10ポイント以上の差を2週間以内にひっくり返した前例はないためだ。

それでもキム・ムンス陣営は最後の望みを捨てていない。複雑な条件が重なるが、「ゴールデンクロス(支持率の逆転)」は十分に可能だというのが、キム・ムンス候補側の見解だ。

彼らが期待をかける最後の一手は、他でもないイ・ジュンソク候補との候補一本化だ。もちろん、現時点ではその確率は非常に低い。イ・ジュンソク候補は5月22日の緊急記者会見で「候補一本化はない」と明言した。

一部では、弾劾賛成派のイ・ジュンソク候補と弾劾反対派のキム・ムンス候補が仮に一本化したとしても、シナジー効果を生み出すのは難しいという分析もある。情緒や路線が大きく異なる両候補の支持層が一つにまとまるのは難しく、たとえ一本化が実現しても「1+1=2」ではなく、「1+1=1.5」あるいはそれ以下にとどまる可能性もある、ということだ。

だが、逆説的にこの低確率なシナリオが劇的に現実化すれば、大統領選の構図を大きく揺るがす変数になりうるという分析もある。

特に、両候補の合算支持率が李在明候補に迫る、あるいは上回るという世論調査結果が出れば、保守層を中心に一本化を求める声がさらに強まる可能性がある。

劇的な一本化の前例は存在する。2002年の第16代大統領選では、盧武鉉(ノ・ムヒョン、新千年民主党)候補が、選挙25日前にチョン・モンジュン(国民統合21)候補と一本化に成功した。2022年の大統領選でも、尹錫悦(国民の力)候補とアン・チョルス(国民の党)候補が、投票用紙の印刷日を過ぎてからも、事前投票の前日に劇的に一本化に合意している。

保守ビッグテントは頓挫?

政界では冷静に見て、キム・ムンス候補はもはや一本化のような劇的な逆転カードがなければ、大逆転劇は困難だという分析が多い。

キム・ムンス候補
(写真=時事ジャーナル)キム・ムンス候補

キム・ムンス候補が逆転の勢いを作り出せないなか、むしろ「ビッグテント」は李在明候補が主導して張っている様子だ。5月に入ってからだけでも、「国民の力」に所属していたキム・サンウク議員をはじめ、改革新党出身のホ・ウンア前代表、ムン・ビョンホ前議員らが李在明候補支持を表明している。

一方で、「反・李在明ビッグテント」はなかなか勢いを得られていない。当初、イ・ナギョン元国務総理が「国民の力」のキャンプに合流するとの説が広まったが、実現しなかった。ハン・ドクス前国務総理を支持していたソン・ハクギュ元「正しい未来党」代表がキム・ムンス候補への支持を表明したが、政界では「院外長老」である彼が勢力拡大にはあまり寄与しないとの見方が大勢だ。

ハン・ドンフン前「国民の力」代表の遊説合流も、今のところ大きなシナジー効果を生んでいない。尹錫悦夫妻との関係断絶を強調して自宅にこもっていたハン・ドンフン前代表が、選挙運動開始から8日後に現場遊説に合流したが、キム・ムンス候補との合同遊説はせず、「単独遊説」にこだわっている。遊説でも「キム・ムンス」の名前ではなく、「候補番号2番」のジャンパーを着て活動している。

ハン・ドンフン前代表は、キム・ムンス候補が尹錫悦前大統領を除名処分しないことや、不正選挙疑惑に明確な立場を示していない点を問題視している。予備選後に党本部を批判して脱党し、米ハワイに渡ったホン・ジュンピョ前大邱市長も、依然として選挙対策本部への参加には否定的だ。

取材によれば、キム・ムンス陣営は李在明陣営に比べて、勢いも士気も劣勢との評価が多い。ハン・ドクス元国務総理との「強制一本化」の後遺症や、戒厳令・弾劾に対する見解の違いなどにより、「ワンチーム」ではなく「各個戦闘式」に陣営が運営されているとの指摘もある。

陣営内からは、親・尹錫悦系の現職議員や一部の党協議会委員長が現場遊説に積極的に参加していないという不満も漏れ伝わっている。「国民の力」の院内行政局は最近、所属議員に対して、選挙運動の活動状況の提出を求める公文書を個別に送ったという。

(記事提供=時事ジャーナル)

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