【前回】K-POPアイドルグループ“多国籍化”の光と影①なぜ外国人メンバーが増えているのか
日本でも話題のTWICEやBLACK PINKをはじめ、多国籍化が進んでいるK-POPアイドルグループ。その歴史と意義については前回紹介したが、一方で外国人メンバーの加入には様々なリスクも伴う。
例えば2016年には、ガールズグループRaNiaのアメリカ人メンバーであるアレクサンドラが、韓国人スタイリストとのコミュニケーションがうまくいかず極端に小さい衣装でテレビ出演をしてしまったことがあった。
しかし、外国人メンバーが抱えるリスクはこうした言語上の問題だけではない。韓国の芸能プロダクション関係者はこう語る。
「国籍が多様であるがために、特に日本や中国の場合、センシティブな歴史的問題に巻き込まれる可能性があります」
象徴的なのは、昨年、TWICEの台湾人メンバーであるツウィに起こったトラブルだ。
ツウィが韓国のテレビ番組に出演した際、台湾の旗(青天白日旗)を振ったことで、中国人から「台湾独立派」と猛批判を受けたのだ。
当時は台湾で総統選が行われていた時期と重なっていたこともあり、この騒動はイギリスBBCでも報じられるほど関心を集めた。
こうした反応を受け、所属事務所のJYPエンターテインメントは「JYPは中国に対し、どのような政治的発言も行わない」と公式見解を発表。ツウィ本人も自ら出演する動画を公開し、「中国人であることを誇り高く思っています」と深々と頭を下げて謝罪したのだった。
一連の騒動によって、TWICEは中国での活動中断を余儀なくされている。
最近も新人ガールズグループDAYDAYの台湾人メンバーであるデビが国籍を「中国」と表記して物議を醸すなど、第2、第3の“ツウィ事態”が起きているが、政治的イシューと無縁でいられないのは外国人メンバーが抱える一つのリスクだと言えるだろう。
さらに、外国人メンバーの脱退も大きなリスクだ。
例えばSUPER JUNIORの中国人メンバーとして活動したハンギョンは所属事務所のSMエンターテインメントに対して専属契約効力の不存在確認訴訟を起こしてグループを脱退している。
この訴訟は簡潔に言えば、もともと事務所との契約が存在していなかったことを確認するというもの。ハンギョンは契約条件に問題があったとして勝訴し、中国に活動の場を移している。
ほかにもSMエンターテインメントでは、EXOの中国系メンバーとして活動していたクリス、ルハン、タオの3人も同様の訴訟を起こしてグループを脱退し、中国での活動にシフトしている(クリス、ルハンはSMと和解し、タオは敗訴。いずれもSMとの契約は継続中)。
こうした脱退の要因については、「韓国の芸能文化に適用できなかった」ことにあるという指摘もあるが、K-POPアイドルが「奴隷契約」とも呼ばれる長期間の不平等な専属契約を強いられていることも大きいだろう。
事実、EXOの脱退メンバーは「契約条件が不公平だ」と口をそろえている。
「韓国大衆音楽賞」選定委員を務める大衆音楽評論家のキム・ジャッカによれば「中国市場は出演料だけを見ても韓国の10~20倍」らしく、自由もお金も制限される韓国から離脱したくなるのも自然なことかもしれない。
とはいえ、所属事務所側からすればたまったものではない。何しろグループのデビューまで最大30億ウォン(約3億円)かかるとされる莫大な費用を投じ、数年間にわたって進めてきたトレーニングとマーケティングが水の泡となったも同然だからだ。
ただ、こうしたリスクは解決できないものではないらしい。前出のキム・ジャッカはこう話している。
「外国人メンバーを取り巻く一連のトラブルは、アイドル産業が内需産業から輸出産業に移行し、外国人が韓国のプロダクションを中心に活動するシステムが定着する過程で発生した、過渡期的な問題です」
つまり、アイドルグループの多国籍化は、まだ成長途上だということ。確かに政治的リスクも脱退リスクも、失敗を教訓にすれば避けられないものではないだろう。
だからこそ、リスクを承知の上で多国籍化は進められているのだろうが、では具体的に、外国人メンバーはどのように探し出し、また育て上げているのだろうか。
次回は外国人メンバーの発掘と養成の実態に迫りたい。
【次回】K-POPアイドルグループ“多国籍化”の光と影③外国人メンバーの探し方と育て方
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