KBSは日本でいうところのNHKに近い局で、SBSとMBCは日テレやテレ朝などの民放局に近いイメージだと考えていただければと思う。韓国ではこの3局が同じ試合を同じタイミングで中継する。
映像もHBS(ホストブロードキャストサービス)から配信される国際映像。つまり、3局が同じ試合を同じ映像で同じ時間帯に中継するため、差別化できるのは実況と解説になってくる。
特に解説者が誰かということが視聴率争いの決め手となるだけに、3局はいずれもメイン解説者に大物を起用するのが特長だ。
今回のカタール大会でも、3局いずれもワールドカップ出場経験のある人気見者たちを抜擢している。
日本でもっとも知名度が高いのは、SBSで解説を務めるパク・チソンだろう。現在はKリーグの強豪・全北現代(チョンプク・ヒョンデ)のテクニカル・ディレクターを務めているが、現役時代には韓国代表として3度のワールドカップ出場を誇り、Jリーグの京都サンガやイングランドのマンチェスター・ユナイテッドでも活躍した。
パク・チソンは前回のロシア・ワールドカップでもSBSの中継席に座ってマイクを握っいたが、今回のカタール・ワールドカップでもSBSのメイン解説者を務めているが、SBSにはもうひとり、注目の人物が解説者を務める。
かつて“韓国のメッシ”と言われ期待されていたイ・スンウだ。
2018年ロシア・ワールドカップに出場し、同年のジャカルタ・アジア大会では決勝戦で日本相手ゴールを奪い、「日本キラー」とも言われて人気絶頂だったイ・スンウだが、その後はシント=トロイデンやポルティモンセで苦しい日々を過ごし、2022年に韓国へ帰国。今季からKリーグの水原(スウォン)FCでプレーしている。
ただ、韓国代表への復帰はならず、カタールW杯の最終メンバーからも落選。現役選手ながらゲスト解説者としてカタールに入国した。
「普段から尊敬するパク・チソンさんと呼吸を合わせることができて光栄。今回は韓国代表としてプレーできず残念ですが、応援団長のつもりでマイクを握って選手たちの善戦に応えたい」とはイ・スンウの言葉。
パク・チソンも「イ・スンウは韓国サッカーの大きな財産。中継席で一緒に座ることができて嬉しい。しっかりリードしながら楽しく解説したい」と語っていたが、日本対ドイツ戦で驚いたのはイ・スンウの饒舌な解説ぶりだった。
試合中は日本の伊東純也のスピードや権田修一のスーパーセーブを激賞。バルセロナのカンテラ時代から知る久保建英についてはこんなエールを送っていた。
「一般的にはクボと呼ばれていますが、僕はタケという呼び名がしっくり来ますね。タケは昔から技術が高い選手。とてもセンスがある。こうやってワールドカップでプレーできる姿を見ることが僕も嬉しいです」
そんなイ・スンウも興奮気味に感嘆していたのが堂安律や浅野琢磨のゴールで、ふたりを途中投入した森保一監督を「素晴らしい用兵術です!!」と大絶賛していた。
それに相槌を打つようにパク・チソンも「森保監督の適切な選手交代、適切な戦術変更が核心的なキー要素になってゴールという実を結んだ。サッカーは試合の流れを争うが、流れを適切なタイミングで変えて掴んだ森保監督の采配がゴールを作った」と大絶賛だった。
もっとも、テレビ視聴率で1位になったのはMBC。パク・チソンと同じく2002年W杯で活躍し、日本のJリーグでもプレーしたアン・ジョンファンがメイン解説者を務める民放テレビ局だ。
日本対ドイツ戦の視聴率はアン・ジョンファンが解説を務めるMBCが10.1%(視聴率調査会社ニールセン・コリア調べ)でトップに輝き、SBS(7.5%)はその後塵を拝した。
ちなみに最下位のKBS(2.9%)のメイン解説者は、2014年と2018年の2度目のW杯に出場し、ドイツ・ブンデスリーガだけではなく、2019年から昨季までカタール・リーグでプレーしたク・ジャチョル。
今季からふたたびKリーグに戻った33歳のイケメン現役選手というフレッシュさと、W杯やカタールでの経験も買われて抜擢されたようだが、実績でもネームバリューでも2002年4強戦士には及ばないだけに、それが視聴率にも反映された格好か。
いずれにしても、韓国ではワールドカップの“解説者戦争”もひとつの関心事になる。64試合全試合無料配信のAbema TVやNHK、フジテレビ、テレビ朝日の3社でも中継する日本でも、解説者に注目してワールドカップを楽しむのも一興かもしれない。