「Do you know Kimchi?」
海外の俳優や著名人が訪韓したとき、韓国メディアなどが必ずといっていいほど聞く質問だ。といっても、彼らに投げかけられる質問は「キムチ」ばかりではない。「江南スタイル」「パク・チソン」「キム・ヨナ」「PSY(サイ)」「独島(竹島の韓国呼称)」なども、よく挙がるテーマだ。
事実、2012年10月にはアメリカ国務省報道官に、とある韓国記者が「PSYを知っているか?」と聞いたという。
まるで「当然知っているでしょ?」と押し付けるようなこの手の質問を、韓国の若者たちは「“クッポン”だ」と皮肉る。
“クッポン”とは、「国(韓国語発音:クッ)」と「ヒロポン」を合成した言葉。明確な定義はないが「国家に対する自負心に陶酔し、無条件的に韓国を称賛すること」といったニュアンスになる。
そんな“クッポン”にうんざりしているは、他でもなく韓国の若者たちだ。特に「韓国文化を広報する」という名分で公的資金が投入されたコンテンツは、“クッポン・コンテンツ”などと揶揄されている。
例えば、『キムチ戦士』というアニメがそれに該当するという。もともとは2009年にYoutube上に公開されたアニメだったが、韓国農水産食品流通公社の「キムチ広報2Dアニメーション事業」に入札され、国家予算の支援を受けて第2期が作られた。
キムチを世界に広報するためのアニメという性格を持っていたが、今ではすっかり“黒歴史”となっているらしい。また、数年前に韓国政府が力を入れていた「ハングル輸出事業」も、クッポンだという指摘を受けている。
表記文字を持たないインドネシアの少数民族などに、ハングルを表記文字として使わせるその事業は、文化体育観光部(「部」は日本の「省」に該当)とその傘下機関が運営する「世宗学堂」が先導した。2009年当時は順調に事業が展開したそうだが、それから数年が経った現在は、どうやら無責任に撤収してしまったようだ。
韓国の若者がクッポン・コンテンツを嫌う理由を、専門家は「韓国政府への信頼がないから」と分析している。
20代を専門的に研究する「大学ネイル20代研究所」のデータが参考になるだろう。同研究所は韓国、日本、中国、インド、アメリカ、ドイツ、ブラジルの大学生1357人を対象に調査した「グローバル7カ国大学生の価値観比較2016」を発刊している。
それによると、韓国大学生の政府・公共機関に対する信頼度は、2.33点。7カ国平均が2.88点(日本は2.87点)なので、相対的に信頼度が低いことがわかるだろう。そんな政府が主導して取り組むコンテンツ輸出だからこそ、若者たちがうんざりしているというわけだ。
もっとも、より根本的なのは自国コンテンツのクオリティの低さも一因かもしれない。自国のコンテンツを見限って、ガンダムやエヴァなどの日本コンテンツを愛する“オドック”(韓国のオタク)が多いことは以前も紹介した。今年、一大ブームを巻き起こした「ポケモンGO」が登場した際も、「死んで蘇っても韓国では作れない」と嘆いていた実情がある。
自国の文化やコンテンツを称賛すること自体は、決して悪いことではないだろう。しかし客観的なクオリティが確保されていなければ、その国のマイナス要素を広めることになりかねない。
いずれにせよ、若者たちに不評なクッポン・コンテンツは今後消滅していくと思うが、はたして。
(文=慎 武宏)
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