18歳から29歳までの男性に、約2年間の兵役の義務がある韓国。兵役期間中は社会から断絶され、過酷な訓練が課せられるだけに、韓国の男性にとって、兵役はかなりセンシティブな話題だ。
そんな韓国で最近、とんでもない“兵役逃れ”を行ったとして、21歳の男が摘発されて話題になった。わざと体重を増やし、軍入隊を回避しようとしたのだ。
韓国の徴兵制度では、体重が過度に多い場合は軍入隊が免除される(過度な低体重の場合も同様)。男は徴兵身体検査を控えた2016年初め、インターネットなどを通じてその事実を知ると、すぐさま自身の肥満化に取り組み始めた。
男は当時、身長180センチ、87キロと平均的な体形だったが、食事量を急激に増やした結果、同年5月に行われた徴兵身体検査のときは107キロまで体重が増加。BMIが33.3に達したことで、徴兵身体検査の規則により、現役兵ではなく社会服務要員に分類された。
社会服務要員として招集されると、国家機関や地方自治団体、公共団体、社会福祉施設で社会サービス事業や行政業務などに従事することで、それが兵役と見なされる。男は小躍りしたい気分だったことだろう。
ただ、BMIが33以上~35未満の場合は一定期間を置いて抜き打ちで再検査が行われるため、軍入隊を避けたい男は、その後も死に物狂いで食べまくり、2カ月後に実施された再検査では、体重113.6キロ、BMI35.2を記録した。男は約6カ月間で30キロ近く増量したわけだ。
しかし、男の計画は結局、失敗してしまう。
急激な体重の変化を怪しんだ兵務庁と警察の調査を受け、男の肥満化計画が発覚。兵役義務の回避について定めた兵役法第86条の規定などによって、懲役6カ月、執行猶予1年の判決が下された。男は罪を認め、現役兵として入隊する意思を明かしているという。
兵役逃れのために太りまくった甲斐もなく、挙句の果てには前科までついてしまったこの男。兵役制度のない日本ではあり得ないニュースだが、実は韓国ではそれほど珍しい事例ではない。
韓国国防部がまとめた資料によれば、13年~17年上半期の4年半の間に摘発された兵役逃れは227件。そのうち「故意の体重増減量」が57件でもっとも多かったのだ。ちなみに「精神疾患偽装」(52件)と「故意の入れ墨」(同)、「眼病疾患偽装」(22件)がそのあとに続く。
同資料によれば、摘発件数自体も13年45件、14年43件、15年47人、16年54人と一向に減る気配がなく、韓国男性の兵役に対する拒否感が伝わってくるが、兵役逃れの方法もさまざまだ。
例えば14年には、現役兵に分類された男が酔い止めパッチ「キミテ」を目に貼って兵役を逃れようとし、懲役1年、執行猶予2年の判決を言い渡されている。「キミテ」の主成分であるスコポラミンが目に入ると虹彩に作用し、瞳孔が拡大する副作用を悪用し、視力障害を故意に作ったという。
また16年には、修士・博士レベルの理工系人材を対象とする「専門研究要員」として3年間の兵役生活を送っていたベンチャー企業経営者が、研究をほっぽり出して会社経営を行っていたこともあった。いったん兵役に就いておいて、兵役義務をまっとうしないというパターンもあるのだ。この男は、存在しない学会をでっちあげて不正に海外出張もしていたという。
お金や家柄に物を言わせる手法もある。ハンソルグループの3代目とされる男は、国防部傘下・兵務庁が指定する企業で働く「産業技能要員」として兵役を務めたが、JTBCテレビの報道によると勤務地の社長が「便宜を図り」、1年10カ月間にわたって欠勤していた。
また、「一洋薬品」も、同じく産業技能要員に分類された3代目の勤務地を、意図的に自社に指定して特恵を与えたとの疑惑が持ち上がったことがある。こうした事件は韓国で、“皇帝兵役逃れ”と見出しが付いて報じられている。
そのほかにも、医者とグルになって何の問題もないのに膝の手術をする、痛風のニセ診断書を提出するなど、兵役逃れの手口は多種多様だ。処分を強化するなど韓国政府も対応しているが、規制が強まるほど、兵役逃れの手法はますます巧妙になっていくかもしれない。
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