韓国で、とあるパブリックアートが話題を呼んでいる。
ソウル駅前の高架公園「ソウル路7017」のオープンを記念して5月20日に設置された「シューズツリー」だ。
これは高さ17メートル、幅10メートル、長さ100メートルの巨大な美術作品で、1カ月をかけて10万足の靴や廃タイヤなどを積み重ねたもの。夜には数千個の灯りが灯る仕組みになっている。
しかし、ソウル市民の間では「醜い」「ゴミの山のようだ」「税金のムダ」といった酷評が公開前から相次ぎ、撤去を求める声も上がった。
製作にかかった費用は約1億4000万ウォン(約1400万円)とされており、そのほとんどが運搬と支柱の設置に使われたという。
作者のファン・ジヘは作品についてこう説明している。
「私はもともと庭園美術家、環境美術家なので、最初は花と木だけでつくろうとしたが、廃棄されるところだったソウル駅高架がソウル路7017として生まれる過程にインスピレーションを得て、ここに似合う構造物を構想した」
「靴には、私たちが都市の中でなくしてしまった価値が何なのか、その方向性を提示するという意味がある」
そんな思いを抱いて制作した作品に対して市民の間で不満の声が上がると、彼女は「様々な反応があることは肯定的」と話しながら、こう弁明している。
「一つは、私がもっとがんばらなければいけなかった。もう一つは、我が国が映画やスポーツのような動的な文化に馴染んでおり、設置美術に対しては不慣れで抵抗があるのではないか」
「見知らぬものに対する恐れは誰にでもある。しかし、制作した人の苦労なしにつくられたものはない。偏見なく、どのような意図を伝えようとしているのか自分自身と対話する時間を持ち、純粋に自分の考え通りに対話できる時間を持ってもらいたい」
自身の不足を認めつつも、韓国社会が設置美術に馴染みがないという点にも着目した発言だが、これに対する韓国ネット民の反応は冷淡に見える。
「一方通行の作品を市民の税金でつくって…」「醜いものはあなたの家に設置してね」「通行を不便にするし、腐ってにおうということがわからないのか?」「ゴミの山をつくっておいて何の意味を付与するというんだ」といった具合だ。
「シューズツリー」は結局、予定されていた9日間の展示期間を終えて撤去された。一連の騒動について、韓国メディア『edaily』のオ・ヒョンジュ記者は「これほどの騒動を巻き起こした公共美術がこれまであっただろうか」としながら、こう分析している。
「(シューズツリーは)現代美術と大衆との距離を確認したわけだ。消費文化を振り返って環境保護を強調しようとしたという趣旨は雲散霧消した」
そして、「芸術とは場所を選ばなければならないことは明らかだ」と前置きしてこう付け加えている。
「一足の靴に心が動かない人はいない。かかとがすり減った靴、片方だけのスニーカーは胸を打つ」
「結局、その良い素材を馴染みのないものにつくったということだ。“シューズツリー”は台無しになった。大衆の理解を得られなかったからではない。心をつかめなかったからだ」
いずれにしても、今回のシューズツリーが不評だったことは間違いない。この教訓を踏まえた上で、今後、韓国は芸術とどのように向き合っていくのだろうか
前へ
次へ