2015年春から夏に韓国で猛威をふるった中東呼吸器症候群(MERS)。初期対応の不手際などから全国各地に拡散したMERSは、同年12月23日にようやく終息したと発表された。
最終的に感染者は186人で、死者は38人となっている。
韓国政府はもちろん、多くの病院や関係者が非難の的となったわけだが、韓国一の財閥グループ、サムスンもMERSで苦しんだ。というよりも、“当事者”だったといったほうが正確かもしれない。
2015年7月3日、韓国中央MERS管理対策本部が発表したところによると、サムスン・ソウル病院の看護師がMERSに感染していることが判明。サムスン・ソウル病院は院内感染防止策が穴だらけで、MERS感染を広げる“拡散地”と揶揄された。
実際に同病院からは89人もの感染者が出ており、そのうち医者や看護師など病院関係の感染者は14人に上った。
184番目の感染者となった24歳の女性は、サムスン・ソウル病院でMERS感染者を看護する過程で自らも感染したと話している。
サムスンといえばスマートフォンや半導体が有名だが、韓国一の財閥グループであるだけに、その事業は手広い。韓国最大の保険会社であるサムスン生命、ホテル関連事業、さらに病院事業も手がけている。
振り返れば2015年6月23日、サムスン電子イ・ゴンヒ会長の長男で後継者と目されるイ・ジェヨン副会長は、記者会見を開き、「私たちのサムスン・ソウル病院が国民のみなさんにあまりに大きな苦痛と心配をかけました」と頭を下げて謝罪している。
サムスングループのオーナー家の謝罪は、イ・ゴンヒ会長が政界への賄賂などの疑いから強制捜査を受け、会長職から退いた2008年4月以来、7年ぶりの大ごと。にもかかわらず、その直後に同病院から再び新たな感染者が発見されたのだから、面目次第もないだろう。
ちなみに同時期、MERS拡散という想定外の事態に苦しむサムスンに、さらなる追い打ちもあった。
サムスン・ソウル病院の看護師がMERSに感染していることが判明したのと同日である7月3日、韓国の金融投資会社「HMC投資証券」が「全体的な需要が不振」としてサムスン電子の目標株価を下げたのだ。HMC投資証券の研究員は「Galaxy S6の出荷量も需要鈍化で、従来の予想値(1700万台)を下回るだろう」と話していた。
世界のスマホ市場で伸び悩みを見せているサムスンにとって、Galaxy S6にかける思いが強かったのは日本でも知られるところ。しかし、その希望は、どうやら空振りに終わってしまったそうだ。病院事業がMERSで叩かれていたサムスンにとっては、泣きっ面に蜂だったに違いない。
いずれにせよ、MERS拡散という想定外の不祥事を起こしたサムスン。韓国一の財閥グループで“巨人”ともてはやされるサムスンも、MERSには大きくつまずいたのだった。
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