毎年、桜の開花が待ち遠しい季節になると、韓国で議論を巻き起こす話題がある。
日本に広く分布するソメイヨシノの起源についてだ。一言で「ソメイヨシノの起源は日本ではなく韓国だ」という、“ソメイヨシノ韓国起源説”がどこからともなく湧き出てくるのだ。
例えば、2017年4月には韓国三大紙の『中央日報』が「ソメイヨシノの本籍地は日本ではなく済州…265歳の木の子孫」という記事を掲載した。
「私は慶尚南道・昌原市の鎮海区余佐洞の周辺に住んでいる。名前はソメイヨシノ。歳は40~50だ」という、ソメイヨシノの一人語り調で書かれたこの記事は、「私の国籍をめぐって議論が多いので、悔しい。私が日本から来た桜というのは誤解だ」などと展開される。
そして「結論からいえば、私の本籍は済州島だ」と続く。ソメイヨシノの起源は韓国という主張だ。
その根拠はなんだろうか。
記事では「ソメイヨシノの自生地は全世界で済州だけ」と書かれており、済州島には「天然記念物として指定された私の祖先(樹齢100~200年以上のソメイヨシノ)が6本ある」としている。
そして「1908年4月、植物採集家だったフランスのエミール・タケ(Emile Joseph Taquet)神父が済州でソメイヨシノの自生地を初めて発見した」と主張。2016年5月には済州市奉蓋洞でも樹齢265年のソメイヨシノが発見されそうで、「韓国がソメイヨシノの自生地であることが立証された」そうだ。
しかも「日本には最高樹齢150年のソメイヨシノの改良品種があるだけ」とわざわざ付け足しており、かなり“ソメイヨシノの韓国起源説”に自信があるように見える。
このフランス人神父の発見が韓国起源説の最たる決め手のようで、2017年3月27日のSBSでも「1908年4月、宣教活動をしていたフランス人タケ神父によって自生したソメイヨシノが済州で初めて発見された」と報じている。
ただ、日本の主張とはところどころで異なっているようだ。
『読売新聞』の「『ソメイヨシノ』はどこからやって来たのか」(2017年3月19日付)によると、ソメイヨシノの韓国起源説が生まれたのは、昭和期・戦前だという。「植物分類学の第一人者だった小泉源一・京都帝国大学教授が、済州島産の桜の標本にソメイヨシノに似たものを見つけた」とある。
小泉教授は「日本に生えているのと同じソメイヨシノも済州島に自生していたと報告。そのうえで、同島から日本に移入されたものではないかと推定した」そうだ。
ここまでの話を聞くと韓国がソメイヨシノの起源であると感じるかもしれないが、近年に入って事情が変わっている。DNA分析が行われるようになったからだ。
なかでも日本の国立研究開発法人森林総合研究所と岡山理科大学が共同で行い、2016年12月22日にTaxon誌に発表した研究結果は、ソメイヨシノの起源に決着をつけるものになったかもしれない。
というのも、日本のソメイヨシノと韓国のソメイヨシノは別物という結論だからだ。
そもそも韓国ではソメイヨシノを「ワンボナム」と呼ぶ(日本ではエイシュウザクラとも)のだが、その学名は日本のソメイヨシノと同じ「プルヌス・エドエンシス」だ。つまり、ワンボナム=ソメイヨシノとなるわけだが、森林総研らの研究ではそのソメイヨシノとワンボナムを厳格に区別している。
要約すれば、ソメイヨシノは「エドヒガン」と「オオシマザクラ」の種間雑種(Cerasus × yedoensis)だが、ワンボナムは「エドヒガン」と「オオヤマザクラ」の種間雑種(Cerasus × nudiflora)となっている。
森林総研は2017年1月に「“染井吉野”など、サクラ種間雑種の親種の組み合わせによる正しい学名を確立」と発表。「済州島産のエイシュウザクラはソメイヨシノの変種として扱われることがあり、ソメイヨシノの起源説も唱えられている」が、今回の研究で「ソメイヨシノとは系統が異なることがわかりました」と伝えている。
そもそも別物であるのであれば、どちらが起源かという議論自体が霧散する。ソメイヨシノの起源は日本で、ワンボナムの起源は韓国となるだけだ。
ただ、韓国ではソメイヨシノとワンボナムが別物という見方は浸透していない。それどころか、前出のSBSの放送では「2001年4月、山林庁(韓国の農林水産食品部傘下)がDNA分析を通じて日本にあるソメイヨシノの原産地が済州漢拏山であることを明らかにしました」と強調している有様だ。
はたして今年もソメイヨシノの起源をめぐって、議論は巻き起こってしまうのか。今年こそはと願わずにいられないが、はたして。
(文=呉 承鎬)
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