尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の拘束が取り消された。予想外の決定だった。
争点は2つあった。
1つは拘束期間の計算を「時間」単位で行うのか、それとも「日」単位で行うのかという点だった。もう1つは、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)が内乱罪に対する捜査権を持っているのかという点だった。
裁判所はこの2つの争点について、いずれも被請求人である尹大統領に有利な解釈を下した。裁判所の判断が出ても、検察が即時抗告すれば尹大統領は拘置所から出られなかったが、検察は即時抗告を放棄した。
尹大統領がソウル拘置所から出てきた際、支持者たちは歓声を上げた。大統領の表情も明るく、拳を握り締めて支持者に応えた。拘束が取り消されると、支持者たちの間では弾劾棄却への期待もさらに高まった。
一方で、最大野党「共に民主党」をはじめ、弾劾を支持する国民の間では、不安が募った。
弾劾は本当に棄却されるのか。憲法裁判所が明示した弾劾審判の争点は5つある。①非常戒厳の宣言過程、②布告令第1号、③国会封鎖、④中央選挙管理委員会の掌握の試み、⑤裁判官の逮捕の試みだ。
これら5つの事案は、現在明らかになっている事実だけでも「違憲」に該当するという見方が多い。5つすべてが「合憲」であると主張することは、法曹人としての裁量の範囲を超えているという指摘もある。
政治的観点から重要なのは、憲法裁判所が弾劾を認めた場合、尹大統領の拘束取り消しが「共に民主党」と与党「国民の力」にどのような影響を与えるかという点だ。
結論からいえば、尹大統領の拘束取り消しは「共に民主党」に有利に作用するだろう。与党にとっては頭痛のタネが増えたようなものだ。
「共に民主党」に有利に働く経路は、大きく3つに分けられる。
第一に、李在明(イ・ジェミョン)代表にとって有利な状況が強まる。
李代表は3月26日に公職選挙法違反の控訴審判決を控えている。尹大統領の存在感が強まるほど、仮に2審の結果が不利になっても、その影響が「薄まる」効果がある。「関連検索ワード」に例えるなら、李代表の関連検索ワードは尹大統領であり、逆に尹大統領の関連検索ワードも李代表だ。
1980年代の軍事独裁政権にとって対抗勢力は、学生運動だった。学生運動は軍事独裁が存在したからこそ活発化し、軍事独裁が消えるとともに衰退した。対立する勢力は、こうした相互依存関係にあるものだ。
第二に、与党の大統領選候補選びにおいて「弾劾賛成派」が勝ち上がる可能性がさらに低くなる。
今回の大統領選全体を貫く最も重要な変数は、「国民の力」の候補が「弾劾賛成派」になるか、それとも「弾劾反対派」になるかという点にある。オ・セフンソウル市長、ハン・ドンフン前「国民の力」代表、アン・チョルス議員らは弾劾賛成派であり、キム・ムンス雇用労働部長官やホン・ジュンピョ大邱市長は弾劾反対派に属する。
もし弾劾反対派が与党の大統領候補になれば、「共に民主党」の勝利は極めて有力になる。一方で、弾劾賛成派が候補になれば、2025年の早期大統領選挙は「51対49」の接戦になる可能性が高い。
尹大統領の存在感が強まるほど、それに比例して弾劾賛成派の立場は弱まる。弾劾反対派が候補者として勝ち上がれば、結果的に「共に民主党」にとって非常に有利な状況が生まれる。
第三に、尹大統領の活動が活発になるほど、「中道層の離反」が促進される。
現在の世論の構図を見ると、弾劾賛成・反対の比率はおおよそ6対4、政権交代・政権維持の比率は約5対4、政党支持率はほぼ4対4の構図だ。尹大統領の存在感が強くなるほど、「共に民主党」にとっては「弾劾賛成・反対の構図」で選挙戦を始めることができる。
一方で、与党が尹大統領と決別し、「弾劾賛成派」が本選の候補として立つ場合、現在の政党支持率のまま選挙戦をスタートさせることになる。
世論調査のデータを詳しく見ると、弾劾賛成・反対の構図と、尹大統領との関係を維持するか断ち切るかで、どちらに有利かがわかる。
韓国ギャラップの3月第1週の調査では、尹大統領の弾劾について賛成60%、反対35%という結果が出た。保守層に限定すると弾劾賛成が29%、反対が69%だった。一方、中道層では弾劾賛成が71%、反対が22%と、保守層とは逆の傾向を示している。
メディアトマトの3月第2週の調査では、「憲法裁判所が弾劾を認めた場合、国民の力はどうすべきか」との問いに対し、「弾劾は不当であり、尹大統領との関係を維持すべき」と答えたのは39.6%、「弾劾結果を受け入れ、尹大統領と決別すべき」と答えたのは55.1%だった。
「国民の力」の支持層では「関係維持派」が72.7%と圧倒的に多かったが、「やや保守層」では関係維持派が46.4%、関係断絶派が46.0%と拮抗していた。
2017年の朴槿恵(パク・クネ)弾劾以降、「国民の力」は「弾劾の壁」を越えなければならないといわれ続けてきた。
2017年の大統領選以降、弾劾反対派が指導部にいたときは選挙で連敗し、弾劾賛成派が指導部になったときに勝利を収めた。2021年のソウル市長補欠選挙や2022年の大統領選がその例だ。
現在、「国民の力」は「弾劾の壁」だけでなく「戒厳の深海」にも沈んでいる。尹大統領の釈放によって「尹錫悦の泥沼」がさらに広がった。さらに、尹大統領は「不正選挙陰謀論」を信奉する政治家でもある。
与党が進む道は、依然として遠く険しいものになりそうだ。
(記事提供=時事ジャーナル)
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