「12・3非常戒厳令」に続いて「裁判所暴動」まで、韓国がかつてないカオスに直面している。
いわゆる「親北勢力の粛清」を掲げた尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が国会や選挙管理委員会を封鎖しようとするなか、大統領を支持する一部の勢力が警察を暴行し、判事を脅迫するなどして立法・行政・司法の三権をすべて無力化しようと試みた。
問題は「与党の態度」や「世論の流れ」だ。
戒厳令や暴動といった極端な事態にもかかわらず、与党はこれらと一線を画すどころか、野党や高位公職者犯罪捜査処(公捜処)、司法部を激しく非難している。このような与党と大統領を支持する保守層の支持率が日増しに高まっている様子も見られる。これはアイロニーと言わざるを得ない。
戒厳令や弾劾政局を通過するなかで、ひとつの流れが生まれつつある。それは「保守勢力の結集」だ。
かつて「太極旗団体」と呼ばれた極右的な支持者と与党、そして一般的な保守層の間の溝が「朴槿恵(パク・クネ)弾劾政局」当時よりも縮まっているのはなぜなのだろうか。
過去には「朴槿恵弾劾」の直後、自由韓国党(現・国民の力)が「極右化している」と批判された事例がある。
当時、自由韓国党を率いていたファン・ギョアン代表が、いわゆる「太極旗部隊」の先頭に立つ役割を自任していたためだ。2019年、自由韓国党が国会で主催した「公捜処法・選挙法強行採決阻止抗議大会」には、太極旗(韓国国旗)や星条旗を掲げた数千人の支持者が集まり、混乱が生じた。
一部の集会参加者が正義党の職員を暴行する事件も発生したが、ファン代表が支持者に対し、「国会に入っただけですでに勝利した」と励ましたことで議論を呼んだ。
しかし、この極右的な路線を選んだ自由韓国党は悲惨な結果を迎えている。
総選挙直前に中道・保守勢力を統合しようと「未来統合党」に改名したが、2020年4月15日の総選挙で惨敗。2017年の大統領選挙、2018年の地方選挙に続き、全国選挙で3連敗を喫したのだ。
結局、ファン代表は就任から1年2カ月で辞任。党は敗北の原因を「中道層の支持回復不足」「弾劾に対する明確な立場の欠如」「若年層からの支持喪失」と分析し、極右勢力と距離を置き始めた。
それから5年が経過し、再び保守政党の「極右化」が取り沙汰されている。
最近、「尹錫悦弾劾反対デモ」の参加者と与党指導部が発信するメッセージが似通っているという指摘が相次いでいる。「12・3非常戒厳令」以降、与党「国民の力」は尹大統領の弾劾訴追や逮捕・拘束に反対し続けている。
さらに、1月19日にソウル西部地方裁判所で発生した「暴動事件」の加担者を擁護するような発言が与党から出たことで、議論を呼んでいる。
「国民の力」のクォン・ヨンセ非常対策委員長は1月20日の最高委員会で「自らの主張を通すために暴力を用いることは、いかなる名分でも正当化されない」としつつも、「共に民主党と一部のメディアは、市民の怒りの原因を無視し、(裁判所に乱入した者たちを)暴徒だと決めつけ、厳罰を求めている」と批判した。
また、「民主労総の前では何もできなかった警察が、市民の前では強硬な姿勢を見せている」と述べ、警察を非難した。
さらに「国民の力」のクォン・ソンドン院内代表も同日、緊急非常対策委員会で裁判所暴動に懸念を示しながらも、「警察が市民を押し倒し、カメラ付き三脚を足で蹴り、バリケードを設置して暴力を防ごうとする市民を盾で殴る姿勢は理解できない」と述べた。
なぜ与党や支持者たちは「反省」ではなく「反撃」を選んだのだろうか。その背景には、朴槿恵と尹錫悦のリーダーシップの違いがあるとされる。
朴元大統領は弾劾の危機に直面した際、「大統領職の任期短縮を含めた進退問題を国会の決定に委ねる」と表明し、与党だけでなく、野党の意向も尊重する姿勢を示した。しかし尹大統領は国会ではなく「我が党(国民の力)」、さらには「愛国市民」に向けて、退陣ではなく「抗議」のメッセージを連日発信している。
尹大統領は非常戒厳令が内乱ではなく、反国家勢力を鎮圧するための統治行為であり、不法行為は存在しないこと、また捜査権限のない公捜処による令状請求が違法であるとの一貫した主張を繰り返している。
尹大統領が「戦おう」とする意思を明確にし、支持者を集めるなか、支持者の抵抗もさらに激化しているという分析がある。尹大統領が強硬な支持層に「闘争の原動力」を直接注入しているとの見方だ。
仁川(インチョン)大学のイ・ジュンハン政治外交学科教授は「朴槿恵元大統領は弾劾危機に直面しても『抗議』や『違法』を口にしなかった。しかし、尹大統領は非常戒厳令以降、公捜処や司法部に対し、『違法、違法、違法』と敵対的な立場を明確にしている。それにより、支持者も司法秩序を無視して抗議活動に走っている」と指摘する。
一部では、強硬な保守支持層の戦場が「広場」を越えて「YouTube」に移ったことが、保守層全体の強硬化を助長しているという分析もある。
デモ現場に足を運ばなくても、YouTubeの動画を通じて支持者の声を簡単に目にすることができ、さらにこうしたメッセージを伝えるユーチューバーが保守層の「オピニオンリーダー」としての地位を確立するなか、「戒厳令支持」「弾劾反対」などの主張が急速に広がっているわけだ。
取材によると、尹大統領も一部の極右的なユーチューバーと個人的に連絡を取り合い、非常戒厳令前後の状況を共有していたことが確認されている。
政治評論家のパク・サンビョン氏は「政治勢力が一部のユーチューバーを利用または支援しており、尹大統領自身が支持者を露骨に煽動している」とし、「そこに一部のユーチューバーがスーパーチャット(投げ銭)などで収益を得るために支持者をさらに強硬化させている」と指摘した。
結局、与党と尹大統領が「運命共同体」を選び、ユーチューバーなど保守派のオピニオンリーダーを前面に押し出して「反撃の根拠」を映像コンテンツとして加工し拡散し始めたことで、「保守の大結集」が進んでいるとの解釈がある。
さらに、「大統領弾劾」に反対する人々が「少数派ではない」ことが世論調査で示されることで、保守層の結束効果が一層強化されているという分析もある。
イ・ジュンハン教授は、「大統領の弾劾訴追後も与党内で分裂の兆候は見られない。さらに世論調査で与党の支持率が実際に高い結果となることで、大統領と与党の支持基盤がさらに強固になっている」と述べている。
政治界の一部からは、「世論調査の特性や限界に注意すべきだ」という声が上がっている。
実際、韓国の保守的な有権者全体の意見を、世論調査の「数字」が必ずしも完全に反映しているわけではないとの見解だ。電話インタビューや自動応答(ARS)方式の世論調査では、主に「政治に高い関心を持つ層」が回答する傾向があるため、いわゆる「隠れ保守層」よりも「強硬保守層」の意見が過剰に反映される可能性があるという。
さらに、「政治的な話題」によって陣営ごとの回答率が大きく変動する可能性があるという分析もある。
新成長経済研究所のチェ・ビョンチョン所長は「ARS調査の特性を理解する必要がある。一般的に、より怒りを感じている陣営が積極的に回答する傾向がある」とし、「『非常戒厳令』当時は進歩派の回答が過剰に代表される傾向が見られたが、最近の話題が『尹大統領の逮捕・拘束』に移行したことで、怒りを感じている保守派の有権者がより積極的に調査に応じるようになった」と話した。
さらに、「結局、世論調査の方法論や状況的な要因によって、発表される世論は『揺れ動く』可能性がある」と付け加えた。
一方で、最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表の「司法リスク」が、強硬保守層と穏健保守層の「共通点」となっているという分析もある。
「不正選挙説」に同意せず、「非常戒厳令」に憤りを覚えた一部の市民のなかにも、「大統領・李在明」に懸念を抱く人が少なくないという解釈だ。
この状況下で、いわゆる「李在明優勢論」が広まるにつれ、一時的な反作用として与党支持率の上昇が起きているという見方だ。そのため、与党内でも最近の世論の動きを誤解すると、未来統合党の失敗を繰り返す恐れがあるという懸念が出ている。
「国民の力」のアン・チョルス議員は1月20日、国会で記者会見を開き、「党の支持率が上がった理由は、むしろ『李在明が大統領になってはならない』という人々が結集した効果だ」と述べた。そして、「この支持率が錯覚となり、『今進んでいる道が正しい、このままもっと強く進もう』という誤ったメッセージを与えかねないことが心配だ」と警告した。
さらに「憲法裁判所で弾劾が認められ、大統領選挙が始まるような事態になれば、(支持率は)いくらでも変わり得るため注意が必要だ」と話した。
(記事提供=時事ジャーナル)
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