尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する「弾劾の時計」が予想よりも遅れて動いている。
迅速な審理を掲げていた憲法裁判所は、現在は「慎重さ」に重きを置いており、弁論終結から1カ月が経った今も判決日を通知していない。
これにより、憲法裁は歴代の大統領弾劾事件の中で最長期間の評議に入ったという記録を更新することとなった。
その間、社会の混乱は急速に深まっている。広場での対立は極限に達し、懸念されていた暴力事件まで発生した。弾劾判決が出る前に、3人が命を落とすという痛ましい事態も起きた。
国民100人中77人が、保守と進歩(リベラル)の対立を深刻に感じているという調査結果も出ている。
憲法裁判所は、ハン・ドクス大統領権限代行・国務総理の弾劾判決が出た翌日の3月25日にも評議を開き、慎重な協議を重ねていると伝えられている。
2月25日に弁論が終結してから、ちょうど1カ月にわたって事件を審理していることになる。憲法裁が3月26日までに判決期日を通知しなければ、尹錫悦大統領の弾劾審判の判決は4月に持ち越される見通しだ。
憲法裁は、大統領弾劾事件としては過去最長の評議期間を記録している。尹錫悦大統領に対する弾劾訴追案は2024年12月14日に受理され、すでに101日が経過している。
これまで盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領は弾劾訴追から63日後、朴槿恵(パク・クネ)元大統領は91日後にそれぞれ判決が下された。
当初、憲法裁は尹錫悦大統領の弾劾審判を最優先で扱うとしていた。しかし、今回は過去の大統領弾劾事件とは異なり、複数の弾劾審判を同時に審理しているために判決が遅れているのではないかとの指摘が出ている。
最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、3月18日、自身のフェイスブックで「憲法裁の判決が納得できる理由もなく遅れ、国民が眠れずにいる」と述べ、「『大統領弾劾を最優先で審理する』と言っていた憲法裁が、他の事件の審理まで始めて判決を遅らせているのは、到底理解しがたい。迅速な罷免判決を求める」と訴えた。
憲法裁の沈黙が長引くほど、国民の混乱も深まっている。
会社員のキム氏(27)は、「昨年12月3日からぐっすり眠れなくなった。少しでも目が覚めると、無意識にニュースをチェックしてしまう。憲法裁が一日でも早く結論を出して、この混乱を収めてほしい」と語った。
主婦のキム氏(55)は、「戒厳令直後から、ひとときもニュースから目を離したことがない。いつ判決日が通知されるのか、首を長くして待っている」と話した。
市民の怒りも極限に達している。憲法裁判所の前では、弾劾賛成派と反対派の対立が激化している。
この場所では「パルゲンイ(アカ)」「親北朝鮮勢力」「極右」「左派」といった罵声が飛び交い、お互いを強く非難し合っている。口論がすぐに取っ組み合いに発展することも珍しくない。
憲法裁前で記者に話しかけてきた市民は、「左派と右派が衝突するのはいつものこと。多いときは1日に3回くらいケンカが起きる」と語った。
ついには、政治家に対する暴力まで発生した。3月20日、尹錫悦大統領の罷免を求める記者会見に出席した「共に民主党」のペク・ヘリョン議員が、誰かに生卵を投げつけられた。警察は現在、容疑者の特定のため、防犯カメラ(CCTV)映像や犯行に使われた卵とミネラルウォーターの購入者の確認を進めている。
同じく「共に民主党」のイ・ジェジョン議員も憲法裁判所付近で、60代の男性Aに暴行を受ける事件が発生した。男性Aは3月20日18時10分ごろ、憲法裁前の路上でイ・ジェジュン議員の右太ももを足で蹴った疑いが持たれている。
憲法裁の判決が出る前にもかかわらず、すでに3人が命を落としている。
高位公職者犯罪捜査処(公捜処)がある京畿道・果川(クァチョン)の政府庁舎付近で焼身を図った50代の男性が1月20日に死亡し、3月19日には尹錫悦大統領を支持するビラを配った後に焼身を図った79歳の男性が死亡した。
3月17日には、光州(クァンジュ)北区にある交差点で、尹錫悦大統領の弾劾を訴えるプラカードを掲げていた60代の男性が倒れ、病院に搬送されたが亡くなった。
社会的対立は統計の数字にも表れている。
3月25日、韓国統計庁が発表した「2024韓国の社会指標」によると、韓国社会において「保守と進歩の対立」を深刻に感じていると答えた人は77.5%に達した。
10人中7人が「戒厳によるトラウマを経験している」という調査結果もある。リアルメーターが昨年12月11日に全国18歳以上の有権者507人を対象に行った調査では、「戒厳によるトラウマを経験した」と答えた人は66.2%に達した。
そのうち「戒厳以降も苦しみが続いている」が40.0%、「戒厳直後は苦しんだが、現在は回復した」が26.2%であった。これに対し、「精神的な苦痛を経験しなかった」と答えたのは27.3%にとどまった。
不確実性が続くなかで、経済心理も方向性をつかめずにいる。この日、韓国銀行によると、前日時点での3月のニュース心理指数は91.73となり、前月(99.85)から8.12ポイント下落した。
尹錫悦大統領が戒厳令を発令した昨年12月(85.75)よりは上昇しているものの、今年1月(99.32)や2月と比べると大幅に下がっている。戒厳前の昨年11月(100.47)と比べると、約10ポイント低い水準だ。
ニュース心理指数とは、経済分野の報道記事に現れる経済心理を数値化したもの。韓国銀行が2022年1月に開発し、毎週月曜日に実験的統計として公表している。記事から標本となる文を抽出し、それぞれの文に含まれる肯定・否定・中立の感情を機械学習で分類し、肯定文と否定文の数の差を計算して指数を算出する。
指数が100を超えると、経済心理が過去の長期平均よりも楽観的であることを意味する。
イ・ヨンミン弁護士(法律事務所シウ)は、「歴史に記録として残る以上、判決文の一文一文を慎重に書かなければならず、また全員一致の意見をまとめようとしているため、判決が遅れているのだろう」と述べたうえで、「前例のないソウル西部地裁事件が起きたこともあり、判決の時期についても熟慮しているようだ」と説明した。
京畿北部地方弁護士会のチョン・ジウン会長(法律事務所ジョン)は、「ハン・ドクス代行の事件に関する判決文を見る限り、裁判官の間に相当な意見の食い違いがあるようだ」としたうえで、「『大韓民国号』の船長が不在の状態である以上、迅速な決定が必要だ。遅れた正義は正義ではない」と強調した。
(記事提供=時事ジャーナル)
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