なぜ韓国機事故は起こったのか…選挙公約で作られた「唐辛子干し空港」と安全性に疑問のLCC、“誤った出会い”

2025年01月03日 社会 #時事ジャーナル
このエントリーをはてなブックマークに追加

年の瀬が迫る12月29日午前、韓国の全羅南道・務安(ムアン)郡にある務安国際空港で発生したチェジュ航空の旅客機事故で、乗客と乗員合わせて181人のうち179人が死亡する大惨事が起きた。

【注目】訪日韓国人が最も利用しているチェジュ航空

務安空港は最近、開港から17年目にして定期国際線の運航を開始したばかりであった。しかし、1カ月も経たないうちにこの大規模な惨事が発生した。突然のチェジュ航空の惨事は、国内外に深刻な衝撃を与えている。

一部では、この務安空港での悲劇を、国際線の不足に悩む務安空港と、成長基盤の確保を目指して第3のハブ空港化を進めていたチェジュ航空の間で、安全性が後回しにされた「誤った出会い」による予見された事故だとの見方もある。

では、両者はどのようにして出会い、なぜ史上最悪級の航空惨事を引き起こすに至ったのか。

その「出会い」を正確に理解するには、西南圏のハブ空港を夢見た務安国際空港と、国際線拡大戦略を展開していた低コストキャリア(LCC)の先駆者であるチェジュ航空の事情をまず把握する必要がある。

開港当初はバラ色の未来図を描いたが…現実は

事故現場
(写真=時事ジャーナル)事故現場

そもそも務安空港は、湖南(ホナム)地方唯一の国際空港だ。開港当初は希望に満ち溢れていた。国土西南圏の拠点空港として成長するという期待が大きかったからだ。

「年間519万人を収容できる旅客ターミナルを備えた国際空港として、西南圏のハブ空港の役割を果たすだろう」

これは開港時、政府関係者が自信を持って発表した「バラ色の未来図」だ。

西南圏の拠点空港を目指し、金大中(キム・デジュン)政権時代の1999年に着工し、2007年に開港した。近隣にすでに空港が存在していたにもかかわらず、選挙向けの公約として推進され、当時この事業を主導したハン・ファガプ国会議員の名前を取って「ハン・ファガプ空港」とも呼ばれた。

韓国政府は仁川(インチョン)・金海(キメ)国際空港とともに、航空交通網の三角軸を形成するため、1999年に着工し、国費3000億ウォン(約322億円)を投入した。施設や旅客処理能力を基準にすると、国内空港の中で5番目の規模を誇り、開港当時は東北アジアの前進基地としての役割が期待されていた。

施設の規模だけを見ると、国際空港として遜色はない。年間14万回の離着陸が可能な2800メートルの滑走路と、航空機9機が同時に駐機できるエプロン(9万平方メートル以上)を備えている。駐車場(2095台収容規模)や旅客ターミナル(年間519万人収容規模)も大きく建設された。滑走路は仁川や金浦(キムポ)空港より短いが、清州(チョンジュ)や大邱(テグ)空港よりは長い。

務安空港は「西南圏拠点空港」という象徴性を取り戻すため、最近、大規模な投資が行われた。約2兆5000億ウォン(約2682億円)を投入してKTX湖南線に「務安国際空港駅」を新設する計画で、滑走路も2800メートルから3160メートルに延長する工事が進行中だ。

全羅南道の関係者は「務安空港は現在困難に直面しているが、KTX湖南線が経由され、長期的には木浦(モクポ)-済州(チェジュ)海底トンネルを通じてKTXが運行されれば、名実ともに西南圏のハブ空港としての役割を果たすだろう」と語った。

「半端な国際空港」の汚名に切実な思い

しかし、開港から17年が経過した現在の務安空港の現実は、政府の期待とはまったく異なるものとなっている。

務安国際空港
(写真=時事ジャーナル)務安国際空港

西南圏ハブ空港への飛躍という構想は跡形もなく消え、「地方空港」「半端な国際空港」というレッテルを長らく貼られている。滑走路の利用率は一貫して全国最下位レベルだ。利用者が少なすぎて滑走路で地元住民が唐辛子を干す光景が目撃され、「唐辛子干し空港」とも呼ばれた。

新型コロナウイルスの影響を受けた2022年には、滑走路の利用率はわずか0.1%にとどまった。それ以前でも5%未満という状況だった。空港建設前に年間992万人が利用すると予測されていた務安空港だが、2023年の利用客はわずか24万6000人に過ぎなかった。

運航便も少なく、国際空港としての地位すら危ぶまれる状況だ。金浦や仁川への路線も存在しない。国際空港どころか、「半端な国内空港」と言われても仕方がない。

利用客が少ないため、2000台を収容できる駐車場も空きが目立つ。この駐車場の料金が無料であることについて、外部から来た人々は「どれだけ空港が閑散としていたら、こんな時代に駐車場が無料になるのか」と冷笑することもある。

その結果、毎年100~200億ウォン(約10億7000万円~21億4000万円)ずつ赤字が増え、累積純損失は1000億ウォン(約107億円)を超えている。国土西南圏のハブ空港としての役割を果たすどころか、国策事業として税金を浪費した例として、しばしばメディアに取り上げられるのが現実だった。

未来も楽観できない。2029年には全羅北道にセマングム国際空港が開港予定だ。競争相手がいない現状でも厄介者扱いされている務安国際空港が、存在意義を完全に失う可能性もある。危機感がますます高まっていた。

韓国政府と全羅南道は、務安空港の活性化に向けて多くの努力を注いだ。特に国際線路線の増加に力を入れた。だが、政府と全羅南道が次々と活性化政策を打ち出しているものの、その効果はほとんど見られなかった。

それは、務安空港が抱える「根本的な限界」が原因だ。全羅南道出身のある公務員は「国際線が非常に少ない上に利用客も少なく、航空当局や自治体が藁にもすがる思いで活性化に取り組んできた」と語った。

手を差し伸べた「チェジュ航空」

このような務安空港の切実な状況は、ちょうど長期的な成長基盤を整えるためのチェジュ航空の「地方空港ハブ化戦略」と合致した。

両者の協力はすぐに成果を上げ、務安空港は2018年に利用客が56万人を突破して話題を呼んだ。衰退しつつあった務安空港に活気を取り戻させたのは、LCCの先駆者であるチェジュ航空だった。

事故機となったボーイング737-800型機
(写真=チェジュ航空)事故機となったボーイング737-800型機

光州(クァンジュ)地域の海外旅行需要の増加と、チェジュ航空の「務安空港第3ハブ化」戦略の実施により、国際線定期路線の就航が相次いだためだ。

そもそもハブ空港(Airline hub)とは、特定の航空会社が拠点として主に利用する空港を指す。これはプロ野球の地域密着型チームに似た性質を持つ。チェジュ航空は金海空港の第2ハブ化に続き、2018年から地方国際空港を基点とする国際線拡大戦略として、務安空港の第3ハブ化を推進している。

チェジュ航空は務安空港に注力し、国際線ハブ空港にする計画を掲げた。初年度の4月には務安-大阪線を皮切りに、ダナン、バンコク、台北、セブ、コタキナバル、マカオ、東京、ウラジオストクなどに就航した。

翌年7月からは務安-福岡線も運航を開始。わずか1年で約10本の国際線が就航し、務安空港から計11路線が運航された。このうち、済州線を除く10本が国際線だった。しかし、ダナン、セブ、ウランバートル、関西を除く路線の搭乗率は70%を超えることができなかった。

では、チェジュ航空が低い搭乗率にもかかわらず、なぜ務安空港に固執するのか。専門家の間では、主要空港のスロット(空港ごとの航空機の離着陸許容能力)が飽和状態にあることを理由に挙げ、「チェジュ航空はやむを得ず務安空港で事業拡大のための投資を続けているのではないか」との分析が出ている。

チェジュ航空は国内LCCの中で最大規模を誇る航空会社だ。価格面では魅力的だが、改善されたという評価にもかかわらず、安全性が低いというイメージを完全には払拭できていない。

ただし、「LCC=安全性に問題がある」という方程式は、必ずしも成り立たない。

大手航空会社(FSC)と同様に、国際民間航空機関(ICAO)の安全基準や検査を同じく受けており、事故率も大差ないためだ。たとえば、ベトナムの民間LCCであるベトジェット航空は、オーストラリアの航空安全・品質評価機関エアライン・レイティングス(Airline Ratings)が今年初めに発表した「世界で最も安全な20のLCC」に選ばれている。

安全性への懸念を抱える「チェジュ航空」

それにもかかわらず、チェジュ航空は各種指標上、安全性に対する利用者の懸念を完全には払拭できていない。

2024年5月30日に国土交通部が発表した「2023年航空交通サービス評価」の「航空運送サービス評価」において、国籍LCCのうちイースター航空、エアプサン、エアソウルが安全性で「A++」評価を受けた一方で、チェジュ航空は最下位級にとどまった。

また、2023年に発生したLCCの航空機安全障害14件中、8件がティーウェイ航空、3件がチェジュ航空で発生した。これは航空整備(MRO)の海外依存度が高いことが原因だと指摘されている。

事故現場
(写真=時事ジャーナル)事故現場

LCCは大手航空会社に比べて整備士が不足しており、自社で航空整備施設を持たない場合が多い。韓国国内の航空会社のうち、自社で航空整備事業を運営しているのは、大韓航空とアシアナ航空だけだ。ジンエアは大韓航空、エアプサンやエアソウルはアシアナ航空の系列会社であり、親会社から支援を受けられるが、チェジュ航空は重要なMROを海外に依存せざるを得ない状況にある。

さらにチェジュ航空は、韓国航空会社の中で旅客機の平均機齢が最も高く、安全性の問題が指摘されることもある。航空技術情報システムによれば、チェジュ航空が保有する42機の平均機齢は13.8年だ。

2023年10月と11月には、それぞれ金浦発・バンコク発の航空機がエンジンの欠陥により離陸中に緊急回航したことがあった。これについて、会社関係者は「航空整備を定期的に実施しているため運行には問題がない」と述べ、「新規航空機が順次導入されるため、平均機齢は低くなる予定」と説明している。

今回の惨事により、務安空港は再び大きな打撃を避けられなくなった。「務安空港第3ハブ化」を構想していたチェジュ航空も、長期戦略事業自体が泡と消える危機に直面している。もちろん、被害規模や事故原因、空港管理などについて様々な疑問が提起されているが、国土交通部など政府の調査がまだ終了していないため、正確な内容を把握するのは難しい。

それにもかかわらず、今回の航空惨事の主な原因として指摘されているのは、鳥との衝突によるエンジン異常が発生し、ランディングギアが作動しなかった点だ。鳥の群れがまず有力な原因と見られている。

ただし、一部の専門家はバードストライクが発生したとしても、他のエンジンや制動装置が作動しなかった点について疑問を提起している。機体の欠陥の可能性も事故原因として分析すべきだとの主張もある。

さらに、事故機の機齢(航空機の年齢)が約15年であることを考慮すると、老朽化の問題というよりは、機体そのものや整備・保守に問題があった可能性も指摘されている。加えて、チェジュ航空の過密な運航スケジュールが機能低下や故障を招いたという見解もある。空港や航空会社側の無理な路線拡大戦略も、事故調査を通じて解明すべき部分だ。

政府は、事故機であるボーイング737-800型機について、国内航空会社を対象に特別点検を実施し、整備体制を詳しく調査する計画を明らかにした。航空安全を統括する主務部門である国土交通部は、12月30日午前、政府世宗(セジョン)庁舎で行われた「チェジュ航空旅客機事故に関するブリーフィング」でこのように発表した。

国土交通部の関係者は「該当機種の稼働率、運航前後の点検および整備記録などを含む全般的な安全性の点検を進める」と述べ、「航空会社の整備体制が規定を遵守しているかを徹底的に確認する」と語った。

(記事提供=時事ジャーナル)

日本を「地獄」と叩いた韓国歌手、日本公演へ…その“二枚舌”を意外な人物が痛烈批判

「残酷で胸が痛い。日本人を嫌いになりそう」日本の元AV女優、韓国で話題

日本でナンパされ「韓国人ではないけど韓国人と名乗った」日本人タレント、韓国で賛否

前へ

1 / 1

次へ

RELATION関連記事

デイリーランキングRANKING

世論調査Public Opinion

注目リサーチFeatured Research