では、なぜ韓国の若者たちは、自国を地獄と呼ぶのだろうか。
ある韓国メディアがその理由を「出生率、世界最下位圏」「会社員の有給消化率、世界25カ国中最下位」「医療費増加率、OECD中1位」「老人貧困率、OECD中1位」などと、数十も挙げて説明していたが、最大の理由は貧富の格差にあるのではないか。
韓国に行く度に友人や記者仲間たちと意見交換しながら感じるのだが、より正確にいえば多くの若者たちがその格差を覆せない硬直的な社会構造に絶望していると考えることができるはずだ。
それは米ブルームバーグが発表した「世界の富豪400人ランキング」(2015年末基準)にも表れている。
同ランキングの400人のなかには、韓国から5人がランクインした。それぞれ、サムスングループのイ・ゴンヒ会長、アモーレパシフィックグループのソ・ギョンベ会長、サムスン電子のイ・ジェヨン副会長、現代(ヒュンダイ)自動車グループのチョン・モング会長、SKグループのチェ・テウォン会長だ。
日本もファーストリテイリングの柳井正会長兼社長をはじめ、ソフトバンクの孫正義会長など5人がランクインしているのだが、両国富豪の“質”はまったく違う。
一言で、日本の富豪5人は自身が実質的な創業者であるのに対し、韓国の富豪5人はいずれも親世代から財産を引き継いだ“相続型”の富豪なのだ。
つまり、誰の子に生まれたかによって、自分の人生が決まってしまうという悲観が根底にあるわけだ。それを証明するかのように、韓国の若者たちは「スプーン階級論」という独自の身分制度を作り出した。
「スプーン階級論」では、「裕福な家庭に生まれる(Born with a silver spoon in one’s mouth)」という英語の慣用句を受けて、「金の匙」「銅の匙」「土の匙」など、貧富の差によって人を区別し分類する。
「金の匙」は親の資産が20億ウォン(2億円)以上などと細かく定義されており、「鉄の匙」「木の匙」と“身分”が下がっていく。低いものになると「糞の匙」「手の匙」という言葉もあるという。
覆せない貧富の格差に対して、韓国の20代たちは“あきらめる”という防御策をとっている。