例えば、サッカー漫画の不朽の名作『キャプテン翼』である。
日本のサッカーブームの火付け役となり、日本代表やJリーガーたちはもちろん、ジネディーヌ・ジダン、アレッサンドロ・デルピエーロ、リオネル・メッシ、アンドレス・イニエスタなど世代を超えた世界のスーパースターたちが“キャプ翼”のファンであることを公言しているが、どういうわけか韓国ではあまり認知度が高くない。
以前、某雑誌から「“キャプ翼”を愛読していた韓国人選手を探して取材してほしい」と依頼を受けたこともあったが、なかなか選手が見つからなかった。
『キャプテン翼』が韓国で出版されなかったわけではない。『ナルアラ(翔べ)キャプテン』というタイトルで、1996~1998年にソウル文化社から翻訳出版されている。ただ37巻までで、南葛中学を率いた大空翼が日向小次郎率いる東邦学園と両校同時優勝するまでで終わっている。
ジュニアユース編も、その後に続くワールドユース編などは翻訳出版されなかったというのだ。
韓国の漫画事情に詳しい関係者に聞いてみると、思いがけない答えが返ってきた。
「小学校、中学校の全国大会優勝を目指すまでは良いのですが、日本代表になって世界と戦う大空翼に共感する韓国人はいない。韓国でサッカー日本代表の躍進を読みたがる人はいませんから、中学編で終わったのでしょう」
つまり、サッカーでは日本に負けないという韓国のプライドが『キャプテン翼』を許さなかったわけか。ちなみに翻訳版では大空翼の名前が、「ハン(韓)・ナルゲ(翼という意味)」だったらしい。
いずれにしても、韓国にも何らかの影響をもたらしている日本のスポ根漫画。スポ根漫画ではないが、最近は『ドラえもん』や『ポケットモンスター』など日本の漫画とコラボレーションする韓国プロ野球チームも増えている。それも斬新なユニホームで公式戦を戦っているのだから驚きだ。
種目を問わずスポーツでは“日本には絶対に負けない”と対抗心を燃やす韓国だが、日本のサブカルチャーには意外と寛容なのかもしれない。
(文=慎 武宏)