仮想通貨が何かと話題だ。
特にビットコインは連日ニュースになっており、その高騰を煽る記事から危険を訴える番組、各国の規制を伝える報道まで、さまざまに世間を賑わせている。
世界のビットコイン取引の過半数が対日本円での取引というのだから、日本がビットコインに沸くのも当然だろう。ただ、日本以上のビットコイン旋風が巻き起こっている国がある。お隣・韓国だ。
韓国国内の株式市場における一日の平均取引額は3兆ウォン(約3000億円)ほどだが、仮想通貨の取引額は6兆5000億ウォン(約6500億円)にも上るという。
その熱狂ぶりは、アメリカの『ブルームバーグ』が「他の国では類例のないビットコイン旋風が韓国を魅了している」(A Bitcoin Frenzy Like No Other Is Gripping South Korea)という記事を掲載するほど。
『ブルームバーグ』が報じたところによると、昨年12月6日、世界のビットコイン取引の21%が韓国で行われたという。韓国が世界経済に占める割合が1.9%に過ぎないことを踏まえると、いかに多くの取引が行われたかわかる一例だろう。
それにしても、なぜ韓国はビットコインに熱狂しているのだろうか。
前出の『ブルームバーグ』の記事では、朝鮮半島の緊張化や大統領弾劾などの“急変事態”の影響で、多くの韓国人がリアルよりもサイバー世界で通用する仮想通貨を持つほうがマシと判断するようになったと分析している。
と同時に、高収益を狙う韓国人投資家の冒険的性向もビットコイン旋風に影響を与えていると解説。2011年に韓国政府が投機を取り締まる前まで、韓国のデリバティブ市場が世界で最も活発に取引される市場だったということが、その根拠だという。
たしかに、その2点も関係していると思うが、より説得力があるのは以下に紹介する韓国の専門家の分析かもしれない。というのも、韓国で仮想通貨に熱狂しているのは、20~30代の若者だからだ。
韓国のアプリ分析会社「ワイズアプリ」が調査したところによると、ビットコインの取引や相場照会を行うアプリ利用者の年齢層は、30代が32.7%で最も多い。
続いて20代(24.0%)となっており、20~30代で全体の半数以上を占めているのだ。韓国のビットコイン旋風を牽引しているのは20~30代の若者ということがわかる。
そういった分析を踏まえると、「なぜ韓国の若者はビットコインに熱狂しているのか」と問うのが本質的だろう。
そのヒントを与えてくれるのが、『聨合ニュース』の「“人生を逆転したくて”仮想通貨に熱中する20・30代…“投機の認識もない”」(1月15日)という記事だ。
同記事では、2人の専門家がビットコインにハマる韓国の若者を分析している。
まず、ソウル大学のクァク・クムジュ心理学科教授は、若者の心理をこう解説した。
「20~30代はビットコインのような仮想通貨の投資を“投機”と認識せず、“他人より早く情報を収集してお金を稼いだ”と考える。新しい技術が連携しているため、自分自身が変化と改革に素早く対応して成功したと思うようだ」
韓国のネット上に「ビットコインでいくら儲けた」といったコメントが溢れているのもそのためで、ビットコインで稼ぐこと=自分の能力の証明になるということだろう。ビットコインが自己顕示欲を満たすひとつの装置になっているようだ。
一方で、延世大学のキム・ジョンシク経済学部教授は「韓国の若者が仮想通貨に熱狂する理由は、給料を貯金してもマイホームを買えないほど、経済格差が大きい社会を作った上の世代の責任でもある」と前置きして、以下のように述べている。
「若者が仮想通貨に追い込まれているのは、それが人生最後の“逆転の機会”と考えているからだ」
韓国は“ヘル朝鮮”という言葉が広く使われるようになるほど、若者たちにとって生きづらい社会になったとの指摘が絶えない。実際に日本と韓国の億万長者を比較すると、その成り立ちに大きな差があることに気付くだろう。
韓国の若者たちが希望を持てるのは、仮想通貨くらいしかないという話だ。
それだけに、仮想通貨の取引を規制するという韓国政府に対しては、怒りの声が上がっている。
韓国大統領府のホームページにある「国民請願」の掲示板には、「仮想通貨の規制反対、政府は国民に一度でも幸せな夢を見せたことがあるのですか」という請願が上がり、2週間あまりで20万人もの署名が集まった。
事実、韓国政府が仮想通貨取引の規制を強化するとの観測が広がったことで、1月11日にビットコインの価格が下落したとの見方もある。
いずれにせよ、若者を中心にビットコイン旋風が巻き起こっている韓国。彼らにとって本当に、仮想通貨が人生最後の“逆転の機会”であるのであれば、奪わないでほしいと思うが…。
(文=呉 承鎬)
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